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第478話

「殿下の、お耳に入れるようなことでは……」 「今更だな。それに、ここに母君はいない」  ゆっくりと、柔らかな手つきで大きな手が凪の髪を撫でる。そう、今更だ。サーミフの罪を許すと言った時、凪は本心の一部を彼に見せている。  あの時、凪はかつての己を否定した。ソレに生かされているのだと、凪の考えたものは子供の夢想に過ぎないと。言い換えるならば、何も変えることのできない、仕方のなかったことと自分に言い聞かせたのだろう。だが凪は先程自分で言っていたではないか。〝仕方のないことと言った自分が一番、仕方なくないと叫んでいる〟と。 「今この場において、ナギの声を聞くのは私だけだ」  他に誰もいない。凪が弱さを見せることができなくなった母も、複雑な感情を抱かずにはいられないナイーマも、警戒しなければならない者たちも、誰も。 「……きらいな、もの……」 「ああ」  頷くサーミフに、凪はゆっくりと手に持っていた茶の水面を見つめた。そこに探さずとも、己の胸に問いかけなくたって、すぐに答えは出てくる。いつだって、しなくても良いというのに指折り数えていた。そんなことをしたって、無くなりはしないとわかっているはずなのに。

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