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第479話
「嫌いなものはたくさん、たくさん、あります。例えば、煌びやかで豪華な建物。例えば、食べきれないほどの美食。例えば、床に落とされた絹。例えば――例えば、嫌いだと口にしながら、それに甘えるしか選ぶ道のない、弱い自分」
嫌いだ。何もかもが嫌いだ。そう凪は胸の内で呟く。
煌びやかな部屋を見るたび、豪華な食事を見るたび、どんな理由であれ結局はこれを捨て切ることなどできなかったのだと思い知らされる。豪華な生活など、たくさんの美食などいらないだろうと、母を説得できなかったあの時の自分。きっと母は凪の生活を守りたくて捨てきれず、凪は母の生活を考えて捨てきれなかった。結局、どちらも裕福な貴族社会でしか生きたことのない世間知らず。それ以外の生活でもいいじゃないかと口にしながらも、想像すらすることはできなかった。
そしてその代償が何であるかを理解できないほど、凪は子供ではなくて。
「そうか」
サーミフ相手に、ずいぶんなことを言っている自覚が凪にはある。だというのに、そんな凪に返されたのは穏やかな、ともすれば肯定するような声音だった。それが凪の柔く脆い、見ないフリをしていたものに触れて、震える唇を噛む。ギュッと、両手で茶器を握りしめた。
「ぅ……、ちが……、そんなに綺麗なんじゃ、ない」
ドロリと濁ったものが溢れ出す。サーミフの前だというのに、感情を抑えることができない。コホ、コホッ、と咳がこぼれ落ちる。
「ナギ、落ち着け」
大丈夫。大丈夫。そう囁きながらサーミフは凪を抱き寄せてその背を撫でる。ポタリと褐色の腕に透明の雫が落ちた。
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