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第480話
「ちがう……。嫌いだなんて、綺麗事。そんなに綺麗なものじゃない。綺麗な言葉で飾ってはいけない」
ポタリ、ポタリと止めどなく雫がこぼれ落ちる。
なぜこんなにも感情が制御できない。さっきまで普通だったじゃないか。
いつものようにサーミフの世話をして、いつものように言葉を交わして。絵本だって、ちゃんと――。
「――ッッ」
何かを求めるように目を開いた瞬間、凪は思わず息を詰める。誰もいないはず、ここには凪とサーミフ以外誰もいないはずなのに、目の前に小さな子供が立っていた。
クルクルとした黒い癖っ毛、灰色がかった瞳、小さな身体に纏うのは、兎都の貴族が好むもの。
(あぁ、そうか……)
子供が微笑む。何も知らぬ無邪気な笑顔を凪に向ける。
(これは、僕……)
あの日、捨て去ったはずの子供。きっとあの絵本の王子様を理解できなかっただろう、幸せな、子供。
(だから、こんなにも苦しい……)
今の凪は、目の前にいる子供ではない。あの幸せな日々を過ごした子供はもういない。だから、〝王子様〟の孤独を知る。どうしようもない、そのグチャグチャになってしまった心を。
「認めたく、ないだけ……誰を偽れても、自分だけは偽れない。ぼく――わたしは、殿下、認めたく、なかっただけ、です。あなたの前で、いや、誰の前であっても、見せたくない」
自分は綺麗な人間だと思いたいから、綺麗な言葉を並べる。善を口にする。そんな自分を、目の前の自分が見ている。
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