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第481話
コホリと乾いた咳がこぼれ落ちた。掴むことのできない目の前の己に手を伸ばす。
豪華な部屋も、たくさんの美食も、絹を落とした媚態も、何もかもが嫌いだ。それは自分の弱さをこれでもかと思い知らせてくるから。そう言うことで、凪は凪自身さえも偽ろうとした。けれど、あぁ、けれど、声に出したそれの、なんと白々しいことだろう。必死になって目を逸らし続けるために紡ぐ綺麗事だ。
「認めたくない……、認めてしまったら、僕は――」
声が聞こえる。目の前の幼き己に向けられていた声。震えた手から茶器がこぼれ落ちて膝を濡らした。
豪華な部屋。たくさんの美食。かつて母や凪が与えられていたもの。それを凪に与えるために母は好きでもない国王の妻となり、その身体を開いた。そう、思っていたかった。母は不本意なのだと、心は父の元にあったのだと、思いたくて。今を、認めたくなくて。だから、ナイーマを可愛がる母の姿を見たくない。自分を兄と呼ぶナイーマの声を聞きたくない。国王と手を繋ぎ、ナイーマを挟んで笑い合う光景を否定したい。母から目を逸らし、ナイーマがどれほど望もうと臣下に徹していれば、否定できると思い込んでいた。子供の浅知恵と笑われようと、信じていたかった。
だって、そうしなければ、今あるすべてが母の幸せと認めてしまうことになる。全てが正しくて、母を幸せにするのは父でも凪でもないのだと。
「――僕は何のためにここにいる。僕が、ここにいる意味がなくなってしまう」
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