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第483話

 一度思ってしまえば、もう消すことはできない。不意に思い出してはポタリと黒い雫を胸の内に落とす。ポタ、ポタ、と止めどなく雫が落ちて、水面を真っ黒に染めてしまった。 〝あなたはお父様とお母様の愛の証なのよ〟  笑っている。目の前の子供が、幸せに、無邪気に笑っている。伸ばした手は空をきるばかりで、何も掴むことはできない。そんな凪を嘲笑うかのように、ふくふくと。 「とあるお国に、一人の王子様がいました」  なぜ、なぜと自問する凪の後ろから静かな声音が聞こえた。伸ばした手がそっと、大きな手に包まれる。 「王子様は二番目の子供でしたが、大好きなお兄様と、大好きなお母様がいるから、王様になれないことは特に気にもしていませんでした。そんな王子様を見て、周りの大人たちは好き勝手に未来を望みます。笑顔の後ろで、未来の自分がどうなっているかを想像しているのです。そこに王子様やお兄様のことは何も含まれていないのだと知ったから、王子様は自分に近づいてくる者はそういうものなのだと諦めました。でも寂しくはありません。王子様にはお兄様とお母様がいるのです」  閉じられた絵本は側のクッションの上に乗せられている。だがサーミフは静かに凪の耳に王子の物語を紡いだ。

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