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第484話

「王子様は面倒なことが嫌いでした。だから王子様は大人たちが望む理想の王子様を彼らに与えました。それで良いと王子様は思っていましたが、お母様はそうではありませんでした。きっと、だからお母様は託したのでしょう。お兄様と王子様に一冊ずつ、お母様は絵本を渡しました。お母様はいつも言います。あなたがハッピーエンドを掴めるよう祈っていると。けれど王子様はついぞ、お母様が望むものを理解しきることはできませんでした。そんな王子様を見て、お母様は悲しそうに笑います。それがどうしようもなく、嫌なことでした」  コホリ、コホリと咳をこぼす凪の背をサーミフはゆったりと撫でる。大きな手と優しい声音に、荒んでいた凪の呼吸が少しずつ穏やかさを取り戻した。 「王子様には嫌いなことがもうひとつあります。それはお母様が何でも受け取ってしまうことです。怪しいとわかっていて、なのに菓子や茶を口にしては倒れることが多々ありました。気づかなかったの、とお母様はベッドの上で申し訳なさそうに微笑んだけれど、それが嘘であることを、王子様は知っていたのです。知ってはいましたが、なぜお母様がそれをやめないのかまでは知らなかったので、王子様は苛立ちを覚えるばかりでした」  ゆっくりと背を撫でていた手が、ポン、ポン、と優しく凪の肩を叩く。気づけば幼子の様に抱き込まれていた。 「あの日も、お母様は寝込んでいました。対外的には、風邪ということで。王子様はどうにかお母様を元気づけられないか、あわよくば生にしがみついてくれないかと考え、お母様がくれた絵本をなぞることにしました。絵本に書かれていた白と薄桃の花。そうすればもうずいぶんと昔に絵本を贈ってくれたお母様は喜ぶかもしれないと思ったのです。宮殿の庭には、花々がたくさんあります。もちろん、白と薄桃の花も。だから庭師に言って分けて貰えば良い。そんなことを考えていました」  花を渡せば、あの絵本を覚えているという証にもなる。きっと、サーミフはそう考えた。その先を思って、凪は瞼を閉じる。コホリと咳がこぼれ落ちた。

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