489 / 501

第489話

「ある時、王子様の国で贋金が発見されました。調べていくにつれ、王子様はとうとうこの日が来てしまったと悟らざるを得ませんでした。心のどこかで、この日が来なければ良いと願っていたのかもしれません。けれど、この国の王子が目を背けるわけにはいきません。背けたら、また大切なものが失われる。次は父か、それとも大好きな兄か。だから王子様は決めました。少しでも疑わしいのなら、冷徹になれ」  それが王子として、弟として正しい行いだと、信じていた。 「策を練り、隙を無くしました。これで全てが明らかになると、もしかしたら安心したのかもしれません。けれど、その結果として罪なき彼が血に塗れた姿を見た瞬間から、王子様に押し寄せるのは後悔ばかりです」  偽りなき心を口にすれば、否定するように腕の中の彼はサーミフの胸元にグリグリと頭を擦り付けた。相変わらず、お人好しが過ぎる。 「彼は言います。もしも母に罪があるのなら自分が償います、と。彼が口にする言葉はどれもこれも〝誰かのため〟。それを聞くたびに王子様は思います。〝ナギのための人生〟は、どこにあるのだろうと」  ピクリと小さく彼の肩が跳ねる。ゆっくり、ゆっくりとサーミフはその背を撫でた。 「誰かを守ろうとする彼は、決して彼自身を守ろうとはしません。誰かの罪を当たり前のことをしたのだと肯定し許す彼は、決して彼自身の思いを肯定することも許すこともしません。きっと彼は王子様が彼の母親を嫌いだから警戒したのだと言っても、仕方のないことだと肯定するでしょう。けれど自身が嫌いだと思うことの何一つとして、彼は許そうとしません。そして許すことのできない彼は自身を責めて責めて言います。自分は何のためにここにいるのか、と」  誰かを許すことはできるのに、自分の負の感情を許すことのできない人。誰かのそれを優しさと言えるのに、自分の優しさを知らぬ人。自身の何一つとして許してやれないから、生きることのできない人。

ともだちにシェアしよう!