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第492話

 そっと、まろい頭を撫でる。ゆっくりと顔が上げられ、濡れた灰の瞳がサーミフを映す。微笑んで濡れた頬を指で拭ってやれば、その瞳はかすかに揺らいだ。探すようにその唇が動く。幾度も言葉を探し、幾度も飲み込んで、そして震える唇を開いた。 「……欲しいものは、まだ、わかりません」  今はまだ、何も浮かばない。 「どこに行きたいのかも、願うものも」  だって凪は狭い世界しか知らない。どこへでも行けると他人は言うかもしれないけれど、凪はずっとどこへも行けないと思っていた。 「けれど…………、けれど、王子様」  問い掛けてくれた、優しい王子様。 「僕が好きなものは、桃です」  あなたがくれた、一等美味しい桃。あれを超えるものを凪は食べたことがない。 「桃が、好きです」  真っ直ぐに返される問いの答え。そのことにサーミフは柔らかく目を細めた。 「ああ、覚えておこう」  ようやく知ることのできた、そのひとつを。

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