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第510話
お父様は、あんまりお兄様のお話はしてほしくないみたいだけど、でも私はお兄様が大好き。だからお話ししたいだけなのに。一緒にいたいだけなのに。最近ではいろんな人に邪魔をされて会うこともできない。乳母は、もうあのお部屋にはいらっしゃいませんよって言う。じゃぁどこにいるの? と聞いたら、わからないと言う。でも私は知ってる。夜にお父様がお母様にこっそり教えてるの、私は聞いちゃったんだもの。
そこに行けば、今度こそお兄様に会える?
遠くでお母様の声が聞こえる。子守唄のように紡がれる、兄弟の物語。
ゆっくりと意識が起き上がる。パチッ、と目が覚めれば、そこは真っ暗な世界。でも、何にも怖くなんかない。ここはよく知る自分のお部屋。何もかも、すべてを知っているお部屋。
(……そうだ)
ふと、思いつく。そう、このお部屋のことはなんだって知っている。お母様が知らないことも、お父様が忘れていることも、全部、ぜんぶ知っている。だから、きっと――。
(ふふふ、んふふふ)
声を殺して、誰にも気づかれないようにそっと。でも溢れ出る衝動に口元の笑みまで消す事はできなくて。
ふふふ。ふふふ。
脳裏に声が蘇る。大好きなお母様の声。優しい声で、物語が紡がれる。
さぁ、これもきっと冒険の始まり。
(なーんて。ふふふ、んふふふふ)
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