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第2話「アルテミスのスパダリ属性」

 神威はその日身体が重かった……普段通りに過ごしていたのに気付いたら熱を出して今まさに同居人よろしくのアルテミスの手による看病を一心に受けていたのである。  あまりにも不甲斐ない自分の体調不良に、神威は気分も滅入って少々涙もろくなっていたのを自覚する頃には、アルテミスの手作りのリゾットが出来上がった頃だった。 「神威君、意識は覚醒していますか?」 「うっ……あ……はぃ……」 「少し食事を摂りましょう。薬を飲む為にも胃に何かしら入れた方がいいとドクターからもよく聞きますから」 「すみ、ません……っあ……」 「さぁ、私に寄り掛かって……いい子ですね」  アルテミスの腕に支えられて身体を起こす神威を、そのまま自分の胸元に寄り掛からせて適量に分けて持ってきてくれてたリゾットを差し出される。  風邪だとは思うのだが、熱が出てからは食欲を刺激する香りや味のイメージが出来ない状態が続いていたのだが、アルテミスの作るリゾットだけは物凄く食欲がそそって、気付けば完食するまでの食欲を回復させていた。  今回のリゾットもそんなに味は強くないのに、フワリとコンソメスープの風味がしていながら、卵の優しい口当たりのいい食感が神威の口に合っていた。  それだけではない、量もしっかり考えられているしリゾットなのでお米を使っているのにそんなに硬くもなく、かと言って柔らか過ぎないという絶妙な硬さを維持していた。 「美味しい……」 「お口に合ったようなら良かったです。さぁ、お薬をお持ちしますから少し寝ていて下さい」 「はい……ふぅ」  アルテミスの胸元からベッドに戻された神威は少しまともになった視界の中で、不意に自分の世話を焼いているアルテミスの背を見つめる事にした。  元々身体の造りが同じ男だとしても差があり過ぎるアルテミスのガタイの良さは、いつ背中を見たとしてもそれは見ていて……見つめてしまう程の鍛えている身体をしているのは明らかであったが、それを口に出してまで言う事は憚られた。  でも、どうしてもアルテミスの背中を見てしまう……まるで引き寄せられるかのような背中の筋肉や肩幅の広い背中につい視線が吸い寄せられる。 「(僕は……どうしてこんなにアルテミスさんを見てしまうんだろう……まるでこんなの恋しているって言っているような女の子のような感じがしてしまう……僕は男だってば……)」 「神威君、お薬をお持ちしました。飲めますか? 起きましょうか先に」 「……」 「神威君?」 「あっ……ご、ごめんなさい……まだ頭がボーっとしていて……」 「熱が上がってきているのかも知れませんね。お薬を飲んだら少し寝てみて下さい。その間にお夕飯の用意をしておきますから」  アルテミスが神威の身体をそっと抱き起こすと同時に胸元にかかえ抱く。そして、薬の錠剤を手渡すと水が入ったマグカップを差し出されて、神威はゆっくりと受け取りそれらを口の中に入れて胃に流し込んだ。  ゴクンと飲んだのを確認したアルテミスがそっと背中を撫でてくれる。それだけでもありがたいのにアルテミスの腕がそっと頭の後ろの回されて支えながら寝かされる。  お姫様の様な扱いだな、と考えていたが今の自分の顔を見たらアルテミスだってお姫様扱いしたくなるのではないだろうかと不意に考えてしまう。  それだけの子供のような、迷子になった子猫のような、そんな淋し気な表情を浮かべていたのだろうと気付く。アルテミスがそっと額の熱を触って確認していると、不意にアルテミスが言葉を呟く。 「少し熱が上がりましたね。このままだと肺炎になり兼ねませんし……汗も出ていますし、着換えますか?」 「うっ……一人で、大丈夫……っあ」 「ほら、起きる時に眩暈が起こっているのであればそれはあまりよろしい事じゃないです。待っていて下さい。着替えのお洋服用意しますから」  パタパタと狭い室内ではあるが、小走りで準備をし始めるアルテミスの言葉に神威は申し訳なくなる。  数日前は立場が逆だった、アルテミスが世話を焼かれる立場だったのに、今は逆になって神威が立場的に世話を焼かれているのでは立場がない。  着替えを持ってきたアルテミスは手慣れた動作で神威を抱き起こし、来ていたTシャツを脱がしインナーにすると、インナーには汗が滲み込んで張り付いている状態だった。  インナーを脱がしてくれたアルテミスの手が肌に触れる度に、神威は言い知れない動揺を感じていた。まるで触れてくれる事を期待するかのような動揺に困惑を覚えてしまうが。 「少し拭きますね? 絞ってはいますが冷たいと思うので無理はしないで下さいね?」 「は、はい……っ!」  ピクンとアルテミスが背中を拭き始めたと同時に跳ねる身体を見られた事に、どうしようかという気持ちが溢れ出てくる。  だが、アルテミスはそっと両手を使って優しく丁寧な手付きで上半身を拭いてくれた。  気持ち良くなったのを感じた神威の心が次第に照れ始める。  アルテミスの手がインナーを着せる為に触れてくる事にドキドキとしてきて、それが思考力が回復した神威の脳を混乱させる。  何が起こっているのかと自分で自分を自問自答するけれども、それはそれで色々と凄い発想や答えに行き着く可能性が高い事を神威は経験上知っている。 「はい、これで着替えは終わりです。頑張りましたね神威君」 「はぁ、は、はい……うっ」 「さぁ、横になって……疲れたでしょうからお休みになっていて下さい。あとの事は私が引き受けますから」 「ごめん……なさい……」  神威がまた意識を睡魔に預けて、ぐっすりと眠ったのを確認したアルテミスはテキパキと行動を開始する。  まず、神威の着替えを洗濯し、柔軟剤も適量入れて洗濯機を回す。  それと同時進行で夕食時の為に用意するリゾットの具材の仕込みをしていき、リゾット用のお米を軽量して準備。  薬の準備も忘れない、毎食後に飲ませている薬の残量を確認して、寝ている今の神威をそっと寝かせている間に食材と冷えピタ、薬の補充の為の買い物に出る。  栄養の取れて、かつ胃に優しい食材をチョイスし、それを活かして夕食のリゾットを作り上げていく。  それらをスピーディーかつ当たり前の様にしてしまうアルテミス。 「このリンゴでシャーベットを作るのもありではありますね。神威君の胃に優しく入ればいいでしょう」  リンゴを買って神威のマンションに戻っていくアルテミス。  一見すれば恋人の家に戻るイケオジではあるが、だが、神威の事をアルテミスが大事にするのにはちゃんとした理由があって――――?

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