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いけないと知りつつ、求めた6

「……千堂君、いるのか?」  ドアの向こうから聞こえてきた声。  それは、まさかの月瀬の声だった。  恐れた事態ではなかったとはいえ、ある意味もっと困った事態だ。  深夜だということを慮ってか潜められた問いかけに、一体どう答えるべきかと困り果てていると、「開けるぞ」とドアが開いた。  隔てるものがなくなって、足音がクリアに聞こえる。  そして、真っ暗な部屋に明かりが灯った。 「……月瀬さん」  明るさに目を細めたが、現れたのは確かに月瀬だった。  こんな夜中に、どうして。 「……どうして、」 「ああ、勝手に入ってすまない。……鍵が刺さりっぱなしになっていたからな。何かあったのかと思って入らせてはもらったが……不用心だから気を付けた方がいい」  何でもないようにローテーブルに置かれる鍵。  どうして、 「どうして、来ちゃったんですか……」 「……どうして?呼んだのは君だろう。……それとも何か、君は何者かの人質になっていて、後見人である私を呼び出すように言われただけだったとか?」  冗談のつもりだろうか。今この状況で、全然笑えない。  少しシワになったワイシャツに、ネクタイもしていないし髪もセットしていなくて、明らかに休んでいたところを急いでここまで来た体だ。  その冗談面白くないです、と言おうとして、唇が震えた。 「っ…………」  咄嗟に噛みしめたが、こぼれるものはとまらない。  ただ、苦しくて。  それをどうにもできなくて衝動的にすがるような真似をしたけど、信じてなんかいなかった。  力になるなんて口先だけだろうと。  そう、思っていたのに。 「つきせさ……」  情けない顔をしてるだろう、ひくっとしゃくりあげると月瀬は表情を和らげた。 「……ようやく、君の方から連絡をくれたな」 「ごめ…なさい、俺…っこんな、時間に…っ、迷惑ばっかり……っ」  泣き出してしまった真稀の頭を、そっと、遠慮がちに撫でる手があたたかい。  涙でにじんだ視界は、夢の中の世界に似ていた。  もしもこれが彼からしたら母への恩だったとしても、それでもこんな深夜にあんなメッセージ一つで駆けつけてくれる人に、これ以上隠し事をしたくない。  既に知っているか、あるいは頭がおかしいと思われるかもしれない。  そうだとしても、今の自分の状況を話しておきたいと思った。

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