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それはとても好きな音だった3

 俯いていると、やがて微かに笑う気配がした。 「……君は優しいな」  あたたかい声音に思わず顔を上げる。  そこにあったのは親しみのこもった眼差しで、胸がぎゅっとなった。  ……優しくなんかない。ただ、怖いだけだ。  ヒトではない真稀が、月瀬の重荷になることが。  迷惑をかけて……疎まれたくない。  彼の身を案じながらも、結局自分を守ることを考えている。  真稀のそんな醜い心を知られてしまうことも。  力なく首を横に振った真稀に、月瀬は言葉を重ねた。 「君の力になりたいと思うことに、彼女は関係ない。君と過ごした時間の中で、君自身に好感を持ったから、何か少しでも助けになりたいんだ」  そんなことを言われたらまた涙が出そうだからやめて欲しい。 「そ、そんなこと言ってるとまた俺に襲われますよ」 「私がそのことに対して、拒絶や不満を口にしたことがあったか?」 「それは……」  まぜっ返したのに、返ってくるのは真摯な言葉だ。  彼の言葉に嘘はない。  けれど、いくらヒトと違う真稀にだって、普通はこんなことを受け入れたりしないということくらいわかる。  ならどうして? ……好感を持ったからだと彼は言った。  真稀自身に好意があるということだろうか。  嬉しい、と思ってしまえば、それはものすごく安易なハッピーエンドかもしれないが、月瀬は『それ以上を求めない安定した供給源』だとも言った。  つまり……それ以上になる気はないということだ。  何故、どうして、と問い詰めたかった。  一方で、ずるい心がやめておけと囁く。  どのみち供給源になってくれると言っているのだから、厚意だということを突きつけられるよりも、好意かもしれないと思っていられる方が幸せなのではないか、と。  大切な人を『ただの供給源』なんかにしたくはないけれど。  もうこれ以上、……月瀬自身を拒否することが、演技だったとしてもできない以上、彼を思いとどまらせる理由を考えつきそうもない。 「……後悔、しますから」  そんな日は来ないで欲しい気持ちと裏腹の捨て台詞が、降参の合図だった。  震える手を彼のベルトにかける。  なんてことをしてるんだという心と、月瀬が招いた事態だと開き直る心と。 「試してみればいい」  そう、月瀬は挑発した。  自分が真稀にとって『安定した供給源』たり得るか試せと、そう言うのだ。  好意を持っている人に、そんなことをしたくはない。  だけど、好意があるからこそ、どんな口実でも触れたい。  相反する感情に、心はずっと乱れたまま。  それでも座る月瀬の足の間に蹲るように膝をつき、前をくつろげて取り出したものに口をつければ、本能が勝って。 「ん………っ」  当初反応していなかったそれも、丁寧に舌を這わすことで育っていく。  今は、これまでのように相手の発情を促す力を使っていない。  互いに正気なのだと思うと羞恥を殺しきれず、鼓動がうるさかった。  けれど、純粋に真稀のしたことで感じてくれているのかと思うと、嬉しい。  先端を口内に導きちゅくっと吸い付けば、先走りの味がして頭が痺れる感覚がある。  欲しい、と、思う心は思慕か飢餓感か。  急き立てられるように深くくわえて、喉奥で扱くと月瀬の呼吸が乱れたのがわかってぞくぞくした。  はっきりと愛しさを自覚しそうになるのを戒めて、主導権を本能へと譲ってしまう。  ……試しているのは、真稀の心ではないのだから。 「…………っ」  卑猥な音を立てて何度も扱き立てると、にわかに苦しげな息をした月瀬のものが、口の中で震える。  火傷しそうな熱いものを、音を立てて飲み込んだ。  空腹を満たされると唐突に眠気が襲ってきて、どれだけ本能に支配されているのかと頭の片隅で冷静な自分が嗤うが、何故か抗い難く、目を閉じた。  願望が聞かせた幻聴だろうか。  意識が落ちる寸前、ご褒美のように優しく頭を撫でた月瀬が、 「まさき」  綺麗な音で、名前を。

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