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その手を握り返せる未来4
吐息が近づいて、唇に柔らかいものが触れる。
ほんの軽い接触だったのに、ピリッと電流が走ったように身体が慄いた。
本当の本当に今更なことに、これから彼とそういうことをするんだと思ったら、頭に血が上って緊張してしまう。
突然体が強張ったのが密着している相手にも伝わったのだろう、月瀬が顔を離した。
「どうした?」
「いえ……あの、き、緊張して口から心臓が出そうなので……っ」
「そうか……実は私もだ」
「そ、そんな風には全然見えませんよ!?」
月瀬には普段とあまり変わった様子はなく、逃げ出さずにいるだけで精一杯の真稀と同じようには見えない。
若干裏返った声で思わず突っ込むと、月瀬は「年上ぶっているだけだ」と笑った。
「こういうことは久しぶりだからな。あまり期待をしないでもらえると助かる」
生真面目にそんな宣言をしてしまう彼が、らしすぎて。
少し笑ったらほんの少しだけ肩の力が抜けた。
「続けても?」と優しく髪を梳かれ、頷く。
再び、唇が重なった。今度は、先ほどよりも少しだけ強く。
促すように唇を啄まれて、誘われるままそこを明け渡す。
「んっ…………」
ちゅ、と濡れた音がして舌が絡まると、じんと腹の奥が痺れた。
急に、夜の街に繰り出すくらい空腹だったことを思い出して、物欲しげに吸い付いてしまう。
彼が笑った気配がして恥ずかしかったけれど、ずっと我慢していた衝動は止まらない。
腹の奥が切なく疼いて、ほしくてたまらなくなる。
「……っあのっ……月瀬さん……っもらっても、いいですか……」
唇を離し、見上げてねだると、月瀬は一瞬考えるような素振りを見せた後「続きは寝室でしよう」と真稀の腕をとった。
やや性急な足取りで寝室に連れ込まれ、ベッドに転がされてからもう一度くちづけられるともう我慢ができなくて、彼の中心へ手を伸ばす。
キスに翻弄されながら前を開くと、中から取り出した彼のものは既に形を変え始めている。
月瀬も真稀と同じように興奮しているのだと思ったら、箍が外れた。
ゆっくり育てるような余裕もなく、彼の体の下に潜り込んで、ぱくりと口内に導き入れる。
「んっ……、」
空腹状態が極限になると、腹を満たすことだけしか考えられなくなる。
想いが通じたばかりで、好きな相手にこんな浅ましい姿を見せたくはない。
けれど、これが自分なのだ。
まだ、完全に受け入れられたわけではないけれど、他ならぬ月瀬は受け入れてくれるという。
だから真稀も、「こんな時に」と思いながらも、素直に求めることができた。
真稀にとってこれは先ほどまでとは違い『食事』だけれど、彼にも気持ち良くなってもらいたいたくて、舌で吸い付くように、口全体を使って何度も扱き上げる。
上手くできているのか、褒めるように頬や髪を優しく撫でてくれる手が気持ちが良くて、うっとりと目を細めた。
「……っ、そろそろ出す、ぞ」
欲望に掠れた声と、満たされる瞬間への期待に、自然と息が上がる。
早くほしくて動きを早めると、口の中のものがぐっと質量を増した。
「んんっ……!」
舌の上で熱いものが弾ける。
味わうように転がしてから嚥下すると、ごくんと喉が鳴った。
腹が満たされ落ち着くと、「やってしまった」と途端に羞恥が襲ってくる。
今は、とても月瀬の顔を直視できそうにない。
「す、みません……俺、」
「なぜ謝る?」
「えぇと、あ、わ、ちょ……っ」
反射的にベッドの上を後ずさろうとした真稀だったが、伸びてきた手にあっさり捕獲されてしまった。
さくさくと服を剥かれて驚きの声をあげるも、「私から君に触れてもいいんだったな?」と念を押されて抵抗を封じられる。
最後の一枚を剥ぎ取られると、既に勃ちあがってしまっている己の中心が目に入り、思わず目を瞑った。
だが、現実から目をそらしたところで、月瀬の手が止まるわけではない。
先走りに濡れたそこを握られ、あっと声が飛び出た。
あまり使った覚えのないそこはただでさえ物理的な刺激に弱いのに、月瀬に触れられてるのだと思うといっそう過剰に反応してしまう。
からかうように先端を撫でられ、ゆるく扱かれただけでも腰が浮いて息が上がった。
「『食事』の後、いつもこうなっていたのでは、大変ではなかったか?」
「あっ……こんな、の、月瀬さんだけ……、しか…………」
「私だけ……か。君は、男心をくすぐるのがうまいな」
「そんな……、あ…や、あ、あっ……!」
早くなった手の動きに、腰が跳ねる。
卑猥な音が恥ずかしくて、けれどそれが快感を助長させる。
「ゃ、……だめ、す、すぐ、出……っ」
構わない、という低い声に促されて、真稀は堪えることもできず、欲望を解き放った。
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