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その手を握り返せる未来5
「……は、……っ、ぁ……」
胸を喘がせながら、ぐったりとベッドに沈み込む。
先日に引き続き、自分の他愛なさが恥ずかしい。
月瀬の手を汚してしまったことに気付いて慌てて身を起こしかけたが、全く同じ展開でティッシュを押し付けて笑われたことを思い出し、再びベッドへ沈んだ。
こういう時は一体どうしているのが正解なのか。
一人で葛藤していると足を上げるように言われて、別のことに気を取られていた真稀はそれがどんな姿勢なのか深く考えずに両足を上げた。
「……え」
開かせた膝裏をぐっと持ち上げられ、予期せぬ事態に息を呑む。
無防備にさらされた場所を濡れた指が探った。
「(ゃ、そんな、ところ……っ)」
そこを使うことは知っていたけれど、実際に触れられるのはやはり抵抗がある。
嫌なのではない。そうではなくて、月瀬にそんなことをさせるのは申し訳ないとか、この先の行為への不安とか。
好きな人になら何をされてもいいという想いと、何をされても平静でいられるかどうかは、イコールではないことを身を以って知る。
「……っつきせ、さ……っ」
「……もう少し力を抜けるか」
月瀬は強引に指を動かすことはなく、不要な力が抜けるのを辛抱強く待ってくれている。
ここで慣らしておかなければ自分だけでなく月瀬も辛いのだとわかっていたが、上手くできないことに焦って、余計体に力が入ってしまっていた。
「ぅ……、ごめ、なさ……っ、上手く、できな……っ」
こんなことで面倒をかけたくないのに。
自分の体なのにどうにもできずに困惑していると、月瀬が宥めるように頭を撫でてくれる。
「謝らなくていい。少しずつ、慣れてくれれば」
「ん……っはい……」
優しい言葉に甘えて、ほっとすると少し力が抜けた。
それを待っていたように指は中へと潜り込んできて、内部を探るように慎重に動く。
「……ぁ、……ん……」
気を紛らわそうとしてか、戯れのように首筋を辿る月瀬の唇が胸へと至り、胸の先を食んだ。
くすぐったいような、切ないような感覚に吐息が漏れる。
至近の体は熱くて、徐々に羞恥や緊張を愛しさや欲望が呑み込んでいく。
じわじわと拡げられる閉じた場所。異物感が別のものに変化を始めるまで、そう時間はかからなかった。
「あ……っ!」
月瀬の指がある一点に触れた時、びくんと身体が大きく反応した。
強すぎるそれが快感なのかよくわからず戸惑っていると、月瀬はそこを何度も撫でて、その度に真稀の身体はびくびくと跳ねる。
「つきせさ、……これ……、……っ」
「いいのか?」
「ん……っ、はい……きもちい……で、ヘンじゃない、ですか……?」
息を乱したまま切れ切れに聞くと、月瀬は指の動きを止めた。
場違いなことを聞いてしまっただろうか。
恐る恐る見上げると、覗き込む月瀬と目が合ってどきりとする。
「不思議な聞き方をするな。不安なのか?」
「ヒトと違ったらどうしよ……って……、ちゃんと最後までできそう……です、か?」
自分は一体どこまでがヒトで、どこからがヒトではないのか?
組成の違いを調べてもらうことなどできず、誰かと一緒にいる時、いつもそれが不安だった。
これまでの経験から表面的には違いはなさそうだけれど、内部は?
月瀬が恋人に望むものを、ちゃんと与えることが出来るのだろうか。
「君は…………」
彼は何かを言いかけたが最後まで言わず、指を引き抜いた。
感情の読めない声音に、不安な気持ちが沸き上がる。
やはり、何かおかしいところがあるのか。
しかし、すぐにそれは杞憂だと知ることになった。
「何を心配しているのかと思えば……」
「月瀬さん……?」
「何も心配することはない。君は眩しいくらいきれいで、私の目にはとても魅力的に映る。互いに望んだ行為なら、何かと較べる必要などないだろう」
力強い言葉と慈しみの眼差しが、真稀の不安を払拭していく。
月瀬の指が、そっと、愛おしむように体を辿った。
「……君を、私のものにしても?」
少し掠れた声に、熱い指に、瞳の奥に欲望の色を見つけて、腹の奥が疼く。
「お願い、します……」
これがどんな欲望でも、もう何でもいい。
「俺も、月瀬さんが、欲しい……っ」
口に出すと、腰が抱えられ、足が宙に浮いた。
「っあ……!」
怯む間も無く、熱いものがぐっと押し入ってくる。
「(はいって、くる)」
指よりもずっと太いそれは、しかし指の時よりもずっとスムーズに真稀の中に収まっていく。
「ひっ……ぁ、つきせさ……ダ、待っ……」
思わず制止の言葉を口にすると、月瀬は半ばほどで動きを止めた。
「……っやはり、辛いか」
「……ど……しよ、おれ……これ、きもちい……」
指の時は挿れるだけでも困難だったのに、痛くないはずはなかろうと思う。
いや、確かに苦しくて痛いような気もするのだが、好きとか欲しいとかの前に、完全にかすんでしまっている。
どうして?と答えを求めて見上げたが、月瀬は応えず、そのまま腰を進めた。
「あ……っ!」
内部を太いもので擦られる強い刺激に、高い声が飛び出て、反射的に中を締め付ける。
深く入り込んだ彼が息を詰めるのが聞こえた。
「つきせ、さ……っ」
「っ……それは、とても歓迎するべき事態だな」
「あ……っで、も、初めてなのに、……こんな……?」
「言っただろう、君が心配するようなことは何もない。ただ感じてくれればいい、私を」
受け入れられている。
自分はずっと、体質のことを隠して一人で生きていくんだと思っていたのに。
「……っ月瀬さん……っ」
幸せで、滲んだ視界のまま腕を伸ばせば、応えて体を折った彼と唇が重なった。
舌と舌が触れあって、その刺激に頭が痺れる。
無意識に舌に吸い付くと、「好きだな」とでもいうように笑われて、小さく謝った。
謝る必要はないと、またキスをもらって、嬉しくて涙がこぼれる。
動かすぞ、と言い置いて、月瀬がゆっくりと腰を引いた。
「あ……っあ、……っあぁ……っ」
ずるずると彼のものが、中をこする。
痛みはなくて、繋がった場所から広がる快感に体が溶けてしまいそうだった。
「あ……っ、ん、あ……あっ」
動きに合わせて飛び出る声を抑える術は何もない。
「は……っつきせさ……っあ……っ、おれ、もぅ……っ」
目の前が霞んで、どういうわけかいつもの空腹感がじわりと湧いてくる。
何故今?
不思議に思ったが、それを考えるような余裕はなく、月瀬に縋っていることしかできない。
「ん……このまま、いけそう、か?」
応える彼の息も、荒い。
真稀は必死に頷いて、本能の求めるまま口を開いた。
「月瀬さんのも……っなか、……いっぱい、欲し……っ」
「く……!」
「あ……、あっ……!」
数度激しく貫かれ、その瞬間は訪れた。
深いところで彼が跳ねて、欲しがったものが注がれる。
「あっ……!?」
今まで感じたことのない熱が腹のあたりから全身に広がり、それが恐ろしいほどの絶頂感を促して、声を上げて真稀もまた白濁を撒き散らす。
容量を超えた快楽と、これまでにないほど満たされる未知の感覚が、惑乱する真稀の意識を白く引き抜いた。
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