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青空の下で笑う貴方と3

 ふっと意識が浮上する。  一瞬自分がどうして眠っていたのかわからなくなり、隣を見れば朝と同じ構図だがしかし既にきちんと服を着て本を読んでいる月瀬がいて、ようやく前後の記憶が繋がった。 「……すみません、俺……寝ちゃって、ましたね」  一人で寝てしまっていたことが申し訳なくて上掛けの中からぼそぼそ謝ると、栞を挟んで本を閉じた月瀬から、心配そうな視線が降ってくる。 「いや、私の方こそ、君がかわいいので我を忘れた。どこか不具合はないか?」 「かわ…………、だ、大丈夫です」  月瀬に抱かれることは真稀にとってはエネルギー供給でもある。仮に行為の際中に何らかの傷ができたとしても、すぐに治ってしまうはずなので、ヒトと違うということを考えるとあまり喜ばしくはないが、そのあたりの心配は無用である。  もちろん疲労感もなくて、とても元気になっているのが、何だか恥ずかしい。 「(しかもなんか途中から……あれじゃいつもの『食事』と同じだった……よな……)」  甘い雰囲気にはまだちょっと慣れなくて、食欲に引っ張られて我を忘れてしまえば際中はそういう羞恥を感じずに済むわけだが、相手があんなに飛んでしまっていて、月瀬は楽しめたり気持ちよくなれたりしてるのだろうか。  甚だ心配だが、それを直球で聞く勇気はまだなかった。 「(でもあれは、月瀬さんも悪い。うん。俺は途中でやめてって言っ……たかどうか微妙に定かじゃないけど一応止めたような気もするし)」  勝手に結論づけていると隣から手が伸びてきて、猫でも撫でるように頭を撫でられた。 「疲れているなら、もっとゆっくり眠っていていいぞ」 「そ、そうですね……今、何時ですか?」 「十四時二十八分だ」  きっちり分数まで言うところが月瀬らしい。 「ごめんなさい、お昼も過ぎちゃいましたね。月瀬さんお腹空いてないですか? 冷蔵庫にあんまり食材がないから、もしよければ、い、一緒に買い物とか……」 「ならば、昼食がてら出掛けるか」  勇気を出して誘えば、当然のように頷いてもらえてホッとする。  月瀬と一緒に買い物に行ければ、もっと彼の好きなものを色々知ることが出来るかもしれない。  そう思ったらなんだかじっとしていられなくなってきて、真稀は身支度をするべく起き上がった。 「じゃあ俺、ちょっとシャワー浴びて着替えてきますね」 「……一緒に入るか?」  ジャケットひとつあればそのまま出掛けられそうな格好の月瀬は、既に体を洗う必要などないだろうに、そんな冗談で真稀をからかう。 「で、出掛けられなくなりそうなので一人で大丈夫です!」  背後で月瀬が笑う気配を感じながら、いつかのように慌てて逃げ出す。  意外に悪戯好きなんだよなと赤い顔でこっそり文句を言ってみたけれど、負け惜しみ感は拭えなかった。  心が通じ合った後のそんな甘い一日があって、その翌日。  つつがなく大学から帰宅し夕食を作っていると、スマホが着信を知らせた。 『おっす。今大丈夫か? というか尻は無事か?』  鷹艶からのいきなりのあまりな出だしに菜箸を取り落とす。  この場合無事とはどういう状態を指すのだろう。  うっかりまともに考えかけたが、違うそうじゃない。  真稀は「今は夕食を作っていただけなので大丈夫です」とスルーを決め込んだ。 『そうか、つっきーがご機嫌すぎてちょっと、いやだいぶ気持ち悪かったから心配してたんだよな』  黙殺したのに追撃されて、一昨日の夜からの甘い展開をうっかり思い出してしまい赤面する。  機嫌は、よかったと思う。  出掛けに「夜まで会えないことが残念だ」とキスして抱き締められて、正直午前中は上の空だった。  ……駄目だ。  話題を変えなくては何かいらないことを言ってしまいそうだ。 「え、えー……と、あ、先日は本当にありがとうございました。護衛とかしてもらってたことのお礼も言えてなくて、気になってたんです。いただいたお電話で申し訳ないんですけど……」  鷹艶には直接的にも間接的にも守ってもらっていたのに、一昨日の夜に礼を言えなかったことは気になっていたから、こうして電話を貰えて本当に良かった。  見えないとわかっていても律儀に頭を下げた真稀に、鷹艶は電話の向こうで『真面目だなあ』と笑う。 『そんなんいいって。全然大したことしてないし。ちっとだけだったけど久々のキャンパスライフも楽しかったしな』  それは確かに、楽しんでいたように見えた。  仲良くなった相手が突然いなくなって、残念に思っている人もきっといるだろう。  賑やかな様子を思い出して微笑ましい気分になっていると、鷹艶は不意に声のトーンを少しだけ落とした。 『今日とか、一人で大丈夫だったか?』 「え? は、はい。無事です」 『そうか、よかった。変な組織の奴の案件じゃなくても、なんか不安な時は呼んでくれていいから』  彼は、体質のせいで真稀が大学生活に不安を抱えていたことがわかっていたのだろうか。  精気の足りない飢餓状態の時は危険な目に遭いやすいかもしれない、というのは何となく感じていたが、確証はなく月瀬にも話していなかったのに。  やはり鷹艶はすごい。 「ありがとうございます。その時はよろしくお願いします」  ありがたい申し出に、真稀は素直に甘えることにした。

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