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kureno4
「っあ、そこ……やだっ」
八神のペニスは生まれたての乳児のように汚れなく美しい。暮野はそれを初めて汚すような背徳感に興奮し、自然と息が熱く、荒くなる。キメの細かい白い肌を上気させる八神に見とれながら、暮野は夢中で八神のペニスにしゃぶりつく。快感に弱い八神が逃げようとしないよう、八神の両手を強く掴み押さえながら、先端の部分を、舌を使って執拗に小刻みに舐めると、八神は体を仰け反らせ「やだっ、やだっ」と身を焦らす。八神のすべての反応が初々しく、恥じらいを伴わせているせいで、暮野のペニスも既にはち切れんばかりで、こんなにも誰かを抱くことに忘我するほど興奮したことなどない。
(いけない。八神は初めてなんだよな)
暮野は自分のすべきことを忘れそうになる。暮野に与えられたミッション。それは八神の精子を採取すること。こんなにも快感に敏感な身体じゃ、あっという間に精を放ってしまう。もっと焦らし、もっとじっくりとお互いの恋情を使って、セックスで愛を奏でないといけない。あまりにも八神が可愛く魅力的なおかげで、暮野にとってそれは容易いが、八神は男とのセックスは初めてだ。リラックスさせながら、最高潮の高みへと八神を誘えるようにしなければならない。
暮野は一旦八神のペニスから口を離すと、舌を上半身へとゆっくり這わせていく。臍、脇腹と性感帯が潜んでいそうな場所を探るように、舌で愛撫する。そして、最も感じやすい八神の片方の乳首を指先で擦ると、もう片方へと唇を持っていき一気に吸い上げる。
「はっ、んんっ」
八神は背を撓らせながら快感に耐える。その姿がとてもエロティックで、暮野にまた、愛する者を執拗に責め尽くしたくなる雄のスイッチが入ってしまい、少しだけ自制しようとするが、八神への熱で侵されてしまっている頭を、クリアに覚醒させることなどできはしない。
(ああ、くそっ、ドキドキが邪魔だ)
今まで何度も男を抱いてきたが、愛いとし過ぎて切ないという気持ちにセックスを邪魔されたことなどない。暮野はいつも冷静に主導権を握りながら相手を抱いてきた。それがどうだ。こんなに胸を苦しくさせ、息をするのもままならない今の自分は、ひどく滑稽で格好悪い。
とにかく、ミッションなど関係なく、この一瞬一瞬を脳髄に焼き付けるぐらいの思いで八神を抱こうと気持ちを切り替える。今はただそれだけに集中しようと心に決めれば、暮野はもう絶対に心乱されたりしない。
わざとチュッ、チュッと淫猥な音を立てながら、八神の乳首に吸い付き舌先で転がす。八神はその度にびくびくと体を震わせ、暮野からの刺激を健気に耐える。暮野はその健気さに胸がきゅんと疼く。暮野の愛撫に身を焦らす、初々しい八神の姿に、暮野の魂は泣きたいような幸福感に震える。
「ああっ、いやっ、もお……」
八神は、しっとりと汗で濡れた体を強引に起こすと、暮野の首に両腕を絡め「キスして」と苦しそうに懇願した。暮野は無言で頷くと、八神を向かい合わせで暮野の膝に乗せた。そして、八神の後ろ髪を掴み引き寄せると、深いキスを浴びせる。キスは何度もしているのに、まるでファーストキスのようなこの新鮮さは何なのだろう。八神を相手にすると、暮野の全てが真新しい感覚になる。大人になると鈍くなっていく五感が、八神によって研ぎ澄まされていくように感じる。
「っふん、はあ、はあ……好き」
途切れ途切れに漏れる吐息まで愛おしい。暮野に舌を絡まされると、未だに怯えるように自分の舌を引っ込めるのが加虐心を煽る。だから、もっともっと責め立て、腰砕けにし、八神の体をドロドロに蕩かせよう。その時、自分と八神を一色多に混ざり合わせれば、暮野たちは最高の高みへと共に上り詰めることができる。
「離さないで、ずっと傍にいてっ」
キスを交わしながら不安そうに眉間に皺を寄せ、思いが口から溢れるように言う八神に、暮野は「離さないよ」と優しく耳元に囁く。胸の奥から這い上がる切なさに目を反らし、暮野は平然とそんな嘘を付く。でも、それは嘘じゃない。暮野も八神以上に八神と離れたくないという気持ちを正直に伝えただけ。ただそれは、暮野の願望でしかないということを分かっている上での言い訳にすぎない。
「離さない。絶対に」
荒々しく八神の柔らかな後ろ髪を引き、必死に視線を合わせると、暮野は性懲りもなくそう言った。そう何度も口にしていれば願望はいつか現実に変わる。否、暮野が変えてみせればいいだけのこと。
暮野は、ふいに沸いた勇気を逃がさないよう自分の口を八神の口で塞ぐ。そしてそのまま八神をベッドに押し倒すと、暮野はキスをしたまま八神の昂りを掴み、同じように昂ぶっている自分のそれと一緒に擦り合わせる。ぬらぬらとした密を絡ませ合う二つのペニスは、お互いを吸い寄せるように刺激し合う。
「はあっ、だめっ」
(大丈夫。まだいかせない)
ベッドの上に無造作に置かれたローションを手に取ると、暮野はタラタラと掌にそれを惜しみなく垂らし、お互いの勃立に塗りたぐる。ひやっとした冷たさが背筋をなぞるが、少しだけ刺激物質が入ったローションは、徐々に熱を持ち、二つのそれをより切なくさせる効果を発揮する。
「なにっ? これ……」
八神は驚いたようにそう言うと、両肘を付いて上半身を起こし、食い入るように二つのペニスを見つめた。
「次はこっち……」
暮野はそう言うと、まだ状況を把握し切れていない八神をいきなり俯せにさせ、強引に腰を持ち上げる。八神は、暮野の顔の真ん前に尻を向けるような態勢になり、ひどく困惑した表情をわざわざ振り返って暮野に見せた。
「いやだ、恥ずかしい……」
泣きそうな顔で八神はそう言うと、耐えられないとばかりに枕に顔を埋めた。
「ああっ、あ、うあっ」
暮野はローションを自分の指にたっぷりと付けると、八神の肛孔にゆっくりと挿入させ、中を押し広げるように優しく指を掻き回す。
「大丈夫、ゆっくり息を吐くんだ……力むな」
暮野は指の動きを少しずつ大きくしながら、八神の肛孔をほぐしていく。くちゅくちゅと卑猥な音が立つと、八神は恥ずかしそうに腰をくねらせ、枕に突っ伏した頭を左右に振る。
「いや、だ、それ……こわい」
「ここは?」
「ーーんんっ!」
暮野の指が、男のオーガズムを導く箇所を掠めると、八神は体を撓らせ仰け反る。そのしなやかな白い体が薄暗い部屋で官能的に輝くのを暮野はうっとりと見つめながら、もう一度その箇所を指で優しくなぞる。
「ああっ、だめ……やめてっ」
駄目と言われるほど興奮するということを初心な八神は知らないのだ。暮野はこんな淫猥な姿で、自分の指によってよがる八神に、頭に血が逆流するほど興奮している。
(ああ、もうやばい……限界だ)
暮野は自分のそれを八神の秘部に宛がうと、震える声で言う。
「力抜いて、優弥……いくよ」
「來さん、ま、待って! こわいっ」
暮野の耳に八神の声が届かない。振り切れた欲情に暮野はもう完全に支配されている。
「ゆっくり、ゆっくり入れるから……」
暮野は後ろから八神の腰を掴むと、秘部に押し当てたペニスをゆっくりと、体重を掛けながら八神の中へ挿入させていく。
「くっう、ううっ」
八神は四つん這いの状態で暮野のペニスを必死に受け止めてくれる。しかし、両腕で自分の上半身を支えるのが辛いのか、左肘を付くと態勢が左に傾く。暮野は挿入させたまま腰をゆっくりと動かし、八神の体を慣らす。
「あ、あ、あっ、やっ、はあっ」
喘ぎとも寄声ともつかない八神の声に、暮野の頭は真っ赤に染まる。もっともっと自分のペニスで八神に嬌声をあげさせてやる。
暮野は八神の両脇を掴むと、繋がったまま上半身を引き起こす。そして、胡座をかいた暮野の上に八神を乗せると、八神の腰を支えながら、一度暮野のものを抜き、再びゆっくり暮野のペニスへと八神の腰を深く落とす。
「ああっ! ふ、深いっ」
暮野はそれを繰り返しながら、八神の耳元に囁き続ける。
「好きだよ。優弥、愛してる……」
「……うぅ、それ今言うの……ずるぃっ」
「優弥は? 俺のこと好き? 愛してる?」
「あ、あっ、愛してるっ、はあ、はあ、ほんとにっ……ああっ、やだぁ」
ローションでぬらぬらと濡れる八神のペニスを掴み、暮野はそろそろ八神の精子を採取する準備をしなければならない。本当はこんな作業などに気持ちを奪われたくない。お互いが純粋に相手への思いだけで繋がり、その繋がりの深さの最高到達点という形で、ただ精を放ちたいのに。
暮野は深い溜息を一つすると、腰と手を同時に動かしぎりぎりまで八神の体を中と外から責める。びくびくと体を痙攣させながら、八神は暮野からの同時の責め苦に嬌声を上げる。
「ああっ、だめっ、だめっ、いくっ、いっちゃうっ」
苦痛に歪ませる八神の表情とその言葉に、暮野は僅かに手を止める。こんなにエロい八神じゃ、少し焦らさなければ暮野の方が先に達してしまう。
「はあ、はあ、何で? やだよっ、辛いよ、もっと、ねえ、もっとぉ」
暮野に振り返り八神が懇願する。潤んだ瞳と、濡れた唇から苦しそうに漏れる息に、暮野は忘我しそうになるのをぐっと理性で堪えると、八神の耳をねっとりと舐めながら、「愛してる」と吐息混じりに囁く。
(そろそろか……)
「ぼ、僕も、僕もっ!」
八神は苦しそうに頬を高揚させながら、絶頂への合図を暮野に伝える。
暮野はこの部屋に来てすぐ。射精をすると同時に意識を無くすよう作られた薬を、密かに飲み物に含ませ八神に飲ませていた。ターゲットに精子を採取していることを気づかれないようにするためにだ。しかも、この薬を使うのは今回が初めてと聞いているのだから、まったく無謀な計画だと暮野は思う。
下から容赦なく八神を突き上げる。八神の中は熱く、キツく、暮野の欲望を絶妙に刺激する。
(まだだっ、いくな! 俺!)
暮野は八神のペニスを掴み擦り上げる手を早める。くちゅくちゅという水音が増していき、それが官能的に脳内に響く。
「あ、あ、あ、あああっ、だめ、だめっ、いくっ、いくうっ」
八神は勢いよく背を反らせながら、びくびくと体を痙攣させ、最後の嬌声を上げた。暮野はその言葉を合図に、ベッド脇のボタンを押すと、ベッドの中央に二十センチ四方の穴ができ、暮野は既に気を失っている八神を俯せにさせると、掴んでいるペニスを扱き、その穴目がけて精液を放出した。
「はあ、はあ、あぶな……ミッション無事成功……」
暮野はそう口に出して呟くと、もう一度ボタンを押しベッドを元の状態に戻す。そして、八神の中から自分のペニスを抜き取り、コンドームの中の、使い物にならない自分の精子を無駄に見つめた。
暮野は荒い息使いのまま八神の背中にキスをする。白い背中はしっとりと汗ばんでいてとてもいい匂いがした。暮野は八神の背中にしばらく顔を埋めると、ゆっくりと八神を仰向けに起こし、自分の膝の上に頭を乗せた。ほんのりとまだ色づく頬が無防備で可愛い。暮野はまた急激に八神への愛おしさが胸に込み上がって来て、寝ている八神にキスをしたくなりゆっくりと顔を近づけた。その時、ぴくりと八神の口元が動いた。
「……來さん、ミッションって何ですか?」
「へ?」
暮野は今八神とばっちり目が合っている……さあっと青ざめるのが自分でも良く分かるほど、暮野は今激しく動揺している。
「僕の精子が必要なんですか?」
「うっ……」
暮野は何も言えず、呆然と八神の瞳を見続けた。
そう言えば、以前臣がごく稀に薬が効かない体質の人間がいるが、そんな人間に巡り会う確率はもの凄く低いから安心しろと言っていたような……。
(何が安心しろだよ! あのくそがっ!)
暮野は心の中で臣を最大限に罵る。もの凄く低い確率を撥ね除け見事に巡り会ってしまった二人を、暮野はひどく運命的に感じるが、そんな奇跡に浸っている場合ではない。
「本当は、僕を愛してるとか嘘なんですね?」
「え?」
「僕の精子が目当てなだけなんでしょう?」
八神の目は疑心に満ちたように曇り、暮野は大好きな八神の目がそんな風に色褪せてしまうことに、強いショックを受けた。
「ち、違う! これは……ま、前にも話したミッションで……」
「だから! そのミッションって何なんですか? 教えてください。教えてくれれば僕は來さんを信じます」
「……む、無理だ。教えられない」
臣に強く釘を刺されたのだ。絶対にこの計画を知られてはいけないと。この時点で八神に計画を知られたら、八神と自分の記憶は消され、暮野は別のターゲットへと任務を変えられてしまう。黙っていれば済むという訳にはいかない。暮野の一度目の失態以来、臣はかなり神経質になっている。来週には臣に、ミッションの進捗状況を報告する予定がある。その際嘘をついていないかを判別するリストバンドのような機械を取り付けられると聞いている。その精度の高い機械に暮野の精神力など敵うわけがない。でも、今回みたいなケースは稀だ。八神がたまたま薬の効かない体質だったということだけで、暮野に落ち度はないのだ。それを強く訴えれば臣はまた見逃してくれかもしれないと、暮野は一瞬そう考えたが、八神に薬が効かないということ事態が、既にこの計画の終了を意味している。だからこそ絶対に臣にばれてはいけないのだ。暮野はその精度の高いリストバンドに負けてなどいられない。でもその前に、何があっても八神に自分のことを信じて貰いたい……。
どうすればいい。八神は元々心に傷がある。他人に傷つけられてきた八神は、やはりそう簡単には人を信じられないのかもしれない。でも、どうか、自分を信じてほしい。例え八神の記憶を消される運命でも、暮野は一分一秒でも多く八神と繋がっていたい。例え限られた期間でも、八神と共にいられる時間に、暮野は噛みつくようにしがみつき、絶対に離したくない。
「優弥に教えたら、俺はこのミッションから下ろされる。そしたらもう、俺は優弥とは会えないんだよ?」
記憶を消すことはわざと伏せる。
暮野は八神の両肩を掴むと、揺さぶりながら強く訴えた。八神は悲しげに瞳を揺らすと、暮野の手を払うように立ち上がる。
「ごめんなさい。來さん……僕、かなり頭が混乱してます。今日はもう、帰ります」
八神は心が全く入っていない、亡霊のような顔でそう言うと、洋服を掴み取り手早く身に着けた。
「待って! 優弥、俺の話を聞いてくれ!」
「さようなら。來さん」
暮野はさようならの意味を必死で考える。それは今だけの別れなのか、一生の別れなのかを。
(多分、今だけだ。絶対に今だけだ!)
八神は悲しみと絶望で動けない暮野に背を向けると、無言でその場を立ち去った。
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