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yagami13

 マンションの寝室には大きなダブルベッドがある。初めてこの部屋に訪れた時と同じベッドだ。あの時、ベットシーツが四方に裂け奇妙な穴のようなものが現れた。あの衝撃を八神は今でも忘れない。絶頂を迎えた後の、自分の目に飛び込んで来た光景。これがまさか精子を採取するものであり、更にその精子が未来へと運ばれるなんて誰が想像しただろう。八神はダブルベッドを見つめながら、これはやっぱり夢なんじゃないかとぼんやりと考えてしまう。でも、もし自分と暮野とのセックスで作られた精子が未来へ行き、その精子が日本人絶滅の一助となったら……。それを想像すると、八神はひどく胸が熱くなった。自分の遺伝子が未来へ行き、それがその先の未来へと繋がっていくことの奇跡……。 (ああ、でも僕のような人間の遺伝子がばら蒔かれるなんて、そんなことあってはならないな……)  ふと、冷静になり、八神はその想像を慌てて掻き消すが、その想像は八神の頭から簡単に消えようとはしない。もし、自分と暮野とのセックスで作られた精子が、何かしら力を持っていたら、それは純粋に、二人の愛の深さによって生まれた力だと証明できるのではないか。八神はそんなことをどうしても考えてしまう。暮野が所属していた機関のトップが考えた手段は、とても現実的ではないが、何故か八神の心を強く揺さぶるからだ。それが日本の未来に必要な、とても大切なものなのではないかと思うと、八神はまた胸が熱くなり、不思議と泣きたいような気持ちになった。 「ずっと気になってたんですが、このベッドには、精子を採取する機能はもうないんですか?」  マンションに戻り、キスを交わしながらダブルベッドに二人一緒に倒れ込むと、八神はシーツをなぞりながら、そう暮野に尋ねた。  暮野が過去で暮らし始めてから、このシチュエーションを味わうのは、ここで初めて暮野に抱かれて以来だ。八神は久しぶりの暮野とのキスに、心も体も、上手く追いつくことができない。 「……あるよ。初めてここで優弥とした時のままだから……どうして?」 「え?……いや、何となく、気になっただけです」  八神は言葉を濁すと、急に自分の質問に恥ずかしくなり、暮野から顔を反らした。 「ここで採取した優弥の精子は、あの後すぐ未来に送ったよ。その後どうなったかは分からないけど」 「そうですか……」  八神はその事実を初めて暮野に聞かされた。やはりあの時の精子が未来へ届けられていたのだ。八神の体は、熱に浮かされたように急に熱くなった。 「來さん……好きです」  気持ちが昂ぶり、八神は暮野を見つめ思わずそう言った。 「……ねえ、もう敬語やめなよ。俺のこと來って呼びな」  暮野は八神の頭の脇に両手を置くと、有無言わせぬ目力でそう言った。 「來……」 「そう。それでいい……」  キスが雨のように降ってくる。こんなご褒美を貰えるほど自分はまだまだ人として未熟なのに。それでもいいと、誰かに許されているようなこの幸せな気持ちは何だろう。 「來……」 「うん……優弥。それでいい」  暮野の名を何度も呼びながら、八神は本当に泣いていた。 「……何で泣くの? 悲しいの? 後悔してるの?」  暮野が即座に不安な顔を作り、八神に問いかけた。 「違うよ。嬉しくて、幸せで、泣いてるんだよ」  付け足すなら、「幸せすぎて怖い」も理由の一つになる。「暮野のような男と自分がどうして」と思うと、この気持ちが大きく幅を占める。でも、それでも、「自分を変えたいという気持ちを忘れるな」と自分を戒めれば、そこから溢れ出る感情は「暮野をどうしようもなく愛している」という、至ってシンプルな感情だけなのだ。 「愛してる……來」 「俺もだよ。優弥、愛してる……」  八神は暮野の首に腕を回し、ぐっと力を入れ自分の体に引き寄せる。   「抱いて……僕をめちゃくちゃにしていいよ……ああ、でも、その前にお願いがあるんだ」 「何?」  八神は暮野の耳元で囁くように言った。 「僕の精子をもう一度未来に送って欲しい。確かめたいんだ。僕と來との、愛の力みたいなものを……もし、それが成功して未来の日本の危機を救えたら、やっつぱり嬉しいし、どんな可能性も潰しちゃいけないと思うし……」  暮野は目を丸くすると、しばらくまじまじと八神を見つめた。 「……そうか、そう来たか……なるほどね」  暮野は片手をおでこに当てると、頭を抱えるような仕草をして見せた。 「駄目? かな……」 「駄目じゃないよ。ただ、驚いただけ……優弥がそんな風に思ってくれることが、嬉しくて……」 「良かった……僕も嬉しい」  敬語を使っていないことに対する違和感が少しずつ薄れていく。もちろんまだ、気が緩むと敬語で話してしまいそうになるし、自分と暮野が対等でいい訳がないとも思ってしまう。でも、ずっと前から知り合いのような、深い絆で結ばれた関係になれたようで、そんな気持ちに胸がいっぱいになる。  暮野との約束を交わすことができ、八神は安堵する。もし暮野が、このミッションを心から憎み、アホらしい夢物語と一蹴するかもしれないと想像していたから。 「……正直言うとさ、俺は優弥と一緒にいられるんなら、日本の未来なんか正直どうなってもいいと思ってたんだよ。でも、やっぱりそれじゃ、駄目だよな」  暮野は八神の頬に軽く口づけると、複雑な表情を浮かべながら八神を見つめた。 「ゲイであることを蔑まされていた未来を、ゲイの俺が救うってことは、ゲイであることに誇りを持つべきってことかな?」 「そうです。あ、いや、そうだよ。だから僕も、來を愛してる自分に誇りを持ちたい。例え今の日本で、ゲイだということで苦労しても、僕は平気だよ」 「ああ。俺もさ。優弥……」 「……來。今度こそ……僕をめちゃくちゃにして」  八神はそう言うと、暮野を引き寄せ、自分から暮野にキスをした。熱く湿った暮野の腔内にそっと舌を入れると、ぬるりと暮野の舌と絡まった。その瞬間、ビリビリと全身に快感が走り抜け、八神の体は、一瞬で暮野からの快感を彩るキャンパスと化す。 「ふ、ん……」  絡まる舌の動きが激しくなる。リズミカルに暮野の舌は八神の舌の裏側まで刺激する。こんな場所に刺激を与えられたことなどない八神は、その初めての感覚に、快感を通り越し少しだけパニックになる。 「はあっ……ふっ、ん……來っ、まっ」  八神は一旦暮野を押し上げ唇を剥がすと、はあ、はあと荒い息づかいで暮野を見上げる。 「はあ、苦しいよ……僕、耐えられるかな」 「駄目。耐えられないほど鳴かせてやる」 「そんな……怖い」 「怖くない。もっともっと、自分を曝け出せよ。優弥」 「來……」  暮野は八神の頬を優しく撫でると、そのままその手を下していき、八神の体を自分の指先で、わざと触れるか触れないかの際どさで、首筋から肩、肩から鎖骨、鎖骨から脇腹へと、何かを奏でるように愛撫する。 「あ、ああ、」  触られた部分が敏感に反応し、八神は我慢できず身を捩る。暮野は愛撫を続けながら、八神の着ているシャツのボタンを外し、器用に脱がせていく。八神も早く暮野の肌に触れたくて、下から手を伸ばすと、暮野の着ているテーシャツを、早く脱いでとせがむようにたくし上げる。二人一緒に上半身が裸になると、強く抱き合い、お互いの体を密着させる。二人の肌から放出される湿度の高い熱は、お互いの体をより強く結び付け、そのまま溶け合って一つになってしまう程の心地良さと、更なる欲情を与える。 「好き、好き……」  八神は浮かされたように暮野に強くしがみつくと、耳元で何度もそう囁く。暮野は八神の囁きに身を大く震わすと、八神の耳をそっと噛み、舌で執拗に八神の耳を愛撫する。 「んっ、や、」  暮野の舌の音が八神の脳髄に響く。その音に八神の思考は麻痺しそうになり焦る。お前は八神優弥という自我を忘れ、ただ無我夢中に暮野だけを欲する男になればいいと、囁かれているみたいに。  暮野の巧みな舌は首筋や鎖骨を通り、ついに八神の胸の突起へと辿り着く。片手で突起を摘み弾くように刺激を与えると、もう片方はいやらしい音を立てながら舌で小刻みに転がす。八神のペニスはもう完全に満ち切り、爆発しそうな欲望を秘めているが、暮野と共に最大限の絶頂を迎えるため、自分の体を上手くコントロールしようと試みる。でも、暮野の愛撫には優しさと愛が溢れていて、そんな暮野の情熱に八神は簡単に流されてしまいそうになる。 「あ、あっ、だ。めっ、や、やっ」  暮野の頭を掻きむしりながら、八神は暮野からの愛撫に耐える。 「だ、だめ、あん、まり刺激、しないでっ、い、いっちゃうからっ」 「無理だろう? そんなの。こんな可愛い優弥を目の前にしたら、俺の理性なんて完全に無くなっちゃうから」 「ああっ、そんな……」 「めちゃくちゃにしていいんでしょ?」 「うっ、うう、そ、そうだけ、ど……」  暮野はニヤリと笑うと、ズボンの上から八神のペニスの形をなぞるように、指先で刺激を与え始める。 「う、そ、それ、やだっ」 「え? 初めてじゃないでしょ? やばいな。今日の優弥は、初めての時より反応が凄い……ああ、もうたまんない。めちゃくちゃ愛してる!」  暮野はそう言うと、がしっと八神のズボンのウエストを掴んだ。そして、瞬時に八神のズボンのボタンを外し、ファスナーを下すと、勢い良くズボンとパンツを同時に引き下ろした。 「う、わっ」  完全に勃立した自分のペニスが恥ずかしくて、八神は体を起こすと前屈みになりそれを隠そうとした。でも、暮野に両手首を掴まれ、そのままベッドへとまた押し倒されてしまう。 「だからあ、初めてじゃないでしょうが」  暮野は呆れたようにそう言うが、内心とても嬉しそうに見える。 「……ご、ごめん。は、恥ずかしくて……」 「……ああ、もう!」  暮野は仰け反るように天を仰ぐと、顔を赤らませながら苦しそうに眉間を寄せ八神を見つめた。八神は暮野のこんな表情を見るのは初めてで、胸がはっとするくらい魅力的な暮野に、視線も心も奪われてしまう。八神と暮野は数秒間お互いに息を荒げながら見つめ合うと、その隙に暮野が、八神のペニスに素早く手を伸ばした。 「あ、」  暮野は八神の反応を伺うように、じっと八神を見つめながら、八神のペニスを掴み擦り上げる。暮野に熱く見つめられと、八神の昂ぶりは一層増してしまう。視線と手の両方からの刺激は、暮野の自分への強い思いが伝わり、それが、身体的な快楽と、精神的な喜びとを同時に八神に与える。 (ああ、どうしよう……)  暮野に抱かれるのはこれが初めてではない。初めて抱かれた時も最高のセックスだったと思う。でも、今はあの時より何かが違う。多分それは、自分たちのお互いへの思いが、あの時よりも確固たる自信によって結びついているからだ。自分たちはもう何があっても離れない。一生一緒に生きていける。その幸福が、自分たちをより最高のセックスへと昇華させてくれる。  だから怖い。このままいったら自分が本当にどうにかなってしまいそうで八神は怖くなる。めちゃくちゃになって、今までの自分を捨て去って暮野に身を預けたら、自分は壊れてしまう。そんな予想に八神は一人身震いする。  暮野は八神のペニスの先端を指でなぞる。すると、そこから愛液が溢れ、ぬめぬめとした感触が八神のペニス全体へと広がる。 「あぁ……はあっ、やあっ」  暮野は八神のそれを擦り上げる力をわざと弱めにし、八神をまだ高みまで行かせるつもりがないのが分かる。だからこそ、余計もどかしく苦しくて、八神は涙が滲む目で、必死に苦しさを暮野に伝えた。 「駄目。まだいかせない」  そう言う暮野もあまり余裕のある表情には見えない。眉間あたりに漂う切なさに、八神はまたぐっと胸が激しく疼き、たまらず暮野を引き寄せると、暮野のペニスをズボンの上から愛撫した。 「くっ」 「脱いで、早く」  八神にせがまれ暮野は体を起こすと、手早く全裸になった。 「ああ、好き。大好きっ」  八神は叫ぶようにそう言うと、暮野を押し倒し、いきなり暮野のペニスを掴むと、躊躇いなく口に含み始める。 「っつ、優弥……やめっ」  腔内を覆いつくす暮野のそれが八神は愛おしくてたまらない。このまましゃぶりつくし、自分の身体の一部にしてしまいたいほど愛おしい。何度か口の中で跳ね上がる暮野のそれに、自分の愛撫で暮野が悦んでいることが嬉しくてたまらない。  八神は口で愛撫しながら、暮野の表情を伺った。快感に身を委ねる暮野の表情には男の色気が溢れていて、八神は思わずそれに見惚れ、口をあんぐりと開けてしまった。 「はぁ、はぁ、あれ? 終わりでいいの?」  権勢逆転。暮野はぼっーと暮野に見惚れる八神を素早く押し倒すと、お返しとばかりに八神のペニスを咥え込み、上下にしゃぶりあげる。 「ひあぁっ……それ、だめ!」    射精感が限界まで来そうな所で、暮野は口を離し、息を荒げ、体を上気させている八神の様子を、上から舐めるように見つめる。 「そろそろ俺も、我慢の限界……」 「來……」  その言葉が合図のように、暮野は八神を四つん這いにさせると、八神の尻を鷲掴みし、左右に開いて秘部を露にする。 「あっ、ま、待ってっ」 「待たない」  暮野はぴしゃりとそう言うと、舌で八神の秘部をぴちゃぴちゃといやらしい音を出して舐める。 「いやあっ、やだぁ、それ、それっ……」  暮野に秘部を執拗に舐められ、八神は腰をくねらせながら暮野の巧みな舌の動きに耐える。徐々に舐められている部分に熱が集まり、そこが蕩けるほど熱くなっていくと、暮野は自分の指にローションを垂らし、その秘部に指を優しく挿入していく。 「ううっ、くっう」  指先をくねくねと動かし、秘部を広げていくと、いつの間にか、暮野の指は三本に増えていて、八神のそこは暮野を受け入れる準備を整えていく。  暮野の指は別の生き物のように暮野の中でうねる。三本の指を巧みに動かし、八神の腰を砕かせるためのスイッチを探す。そのスイッチに暮野の指が僅かに掠めた時、八神は背を仰け反らせてその衝撃に耐える。 「んんっ!!」  もう一度掠められ、八神は肘と膝に力が入らず、うつ伏せに体を落とした。 「ああっ、やだ、もぉっ…はあぁ、はあぁ……」 「いくよ、優弥……愛してる」  ベッドに顔を突っ伏したままの八神の耳元に、暮野が熱く囁く。   暮野は八神の腕を掴み仰向けに体の向きを変えると、八神の両膝を持ち足を上げる。八神の目の前には、そそり立つ美しい造形の暮野のペニスがあり、八神はそれを固唾を飲んで見つめた。 「あああっ!」  暮野は、ローションを足しながら一気に八神の中へと押し入ってきた。暮野のペニスにより、八神の中はみっちりと満たされ、息が止まるほどの衝撃に、八神は声を出せずパクパクと口だけを動かした。 「……悪い、動かすよ」  暮野はそう言うと、自分のペニスをゆっくり抜き差しする。 「はあ、ああ、あっ、ああっっ」  浅い部分を擦られ、今までとは種類の違う愉悦に八神の眼前は霞始め、暮野の顔がぼんやりと映る。シーツを引き剥がしそうな勢いで握りしめ、八神の内壁を暮野のペニスが掠める快感に、八神は体を震わせながら享受する。 「優弥、愛してる、愛してるよ!」  暮野の腰遣いが徐々に早くなる。暮野は八神をまっすぐ見つめ、腰を小刻みに動かし、八神のスイッチを探り当てようとする。 「だめっ、だめっ」  暮野の立派な象徴に暴かれそうになる恐怖と期待。その相反する感情が綯交ぜとなり八神を襲うが、もうその感情など所詮どうでもよくなる。自分はもう忘我する。暮野のからの愛と、暮野への自分の愛の深い海に溺れ、そこで自分は一度溺れ死ぬ……。 「はああっ、やあっ……はあ、あっ、いっ、いくうっ」 「まって! 優弥、もうちょっと!」  暮野は八神と繋がったまま、暮野をもう一度四つん這いにさせると、後ろから八神を激しく突き上げる。八神は顔と背を仰け反らせ、必死に暮野を目で追いながら快感に嬌声を上げる。 「ああっ、だめえっ、い、いっちゃう、いっちゃううっ」 「優弥、優弥!」  暮野は後ろから八神を突き上げながら、八神のペニスをしごき始める。くちゅくちゅという卑猥な水音が、八神には遠くに聞こえる。 「いくよ、優弥……準備はできてる、いって!」  湿った吐息と共に、甘く、切ない掠れた暮野の声が、八神の耳元で響く。 「ら、いいっ!!」  暮野の激しい突き上げに、八神は暮野の名を呼びながら、ついに最高の絶頂へと導かれた……。

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