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第5話
第5話 本気の目
昼休み前。
教室のドアを開けた瞬間、廊下の端から声が飛んできた。
「先輩! ランチ行きましょう!」
いつも通り全力で笑顔の藤岡瑛太。
犬か。いや、もう犬確定だろ。
「……お前、授業は?」
「終わりました! ほら、行きましょう」
「俺、別に一緒に行くなんて言ってない」
「言ってなくても行きます」
相変わらず有無を言わせない。
面倒くさい――のに、なぜか歩き出してしまう俺も俺だ。
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学食。
席に着くなり、瑛太が唐突に口を開く。
「先輩って、僕のこと嫌いですか?」
箸を持ったまま固まる。
「……は? 嫌いっていうか……好きなわけねーだろ」
そう言った瞬間だった。
瑛太が、笑わなかった。
代わりに、真っ直ぐ、真剣に俺を見つめる。
その視線に、胸の奥が妙にざわつく。
……冗談じゃない、って目だ。
思わず視線を逸らすと、瑛太はふっと笑って話を変えた。
だけど、それまでの軽口が、急にぎこちなく感じられた。
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午後の講義が終わり、教室を出る。
「じゃあまた明日!」
軽く手を振って去っていく瑛太。
いつも通りの笑顔なのに――あの「本気の目」が頭から離れない。
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夜。
机に向かっても、ノートより先に浮かぶのは、あの真剣な視線。
「……なんだよ、あの目」
鬱陶しいはずなのに、妙に胸の奥が熱い。
理由が分からないまま、ため息だけが落ちた。
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