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第7話
第7話 拒否のはずが
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翌日。
俺は、あえて遠回りして教室に入った。
――昨日の雨。
あの近さ。肩の感触。息。
全部、まだ消えてない。
だから、今日くらいは距離を置く。
「先輩、おはようございます」
声が飛んできても、視線を合わせない。
「……ああ」短く返す。
横に立たれる前に歩き出すが、結局同じ速度でついてくる。
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「なんか冷たいですね」
笑いながらも、瑛太はそれ以上踏み込まない。
ただ、ずっと近くにいる。
靴音まで重なる距離で。
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廊下ですれ違いざま、袖が軽く触れた。
布越しなのに、妙に熱い。
「……やめろ」
「え、何がです?」
悪びれもせず首を傾げる。
ほんの一瞬の接触なのに、脈が跳ねるのが分かる。
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人混みを抜けるとき、後ろから押されて身体が傾いだ。
倒れかけた腕を、咄嗟に瑛太が掴む。
腰に回った手が、思った以上に強く、熱くて。
「……怪我されたら困るんで」
真剣な声。
見上げた瞳は、昨日の――いや、それ以上に濃い。
離れた瞬間、その熱が逆に際立つ。
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夜。
ベッドに倒れ込んでも、袖の感触と腰を支えた手の温度が離れない。
「拒否したかったのに、結局……」
顔を覆った手の中で、熱がこもる。
自分でもどうしようもない鼓動が、耳の奥で暴れていた。
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