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第3話 BUNNYPARTY+1
※性行為なしのモブとの接触があります。
嫉妬/アナルプラグ/モブ/
その日のセーブル・マーマーは、薄暗さとは無縁のギラギラした喧騒に包まれていた。
天井のミラーボールがビカビカと光を撒き散らし、フロアを埋め尽くす客たちの欲望が渦を巻く。
カウンターに凭れた怜司は、マティーニのグラスを傾けながら、その騒がしい熱を冷めた目で見つめていた。
耳に響く笑い声とグラスのぶつかる音の中で、マスターが怜司の隣でカクテルをシェイクしている。
このバーを経営するマスターもインキュバスだ。
耳はジャラジャラとあちらこちらにピアスが開いていて、さらにはスプリットタンまである。
見たことがある人はわずかだが、右腕を中心にタトゥーもあるそうな。
豊かな黒髪のウェーブを後ろで一つにまとめ、品がありつつ、どこか胡散臭い表情をする男だった。
噂によれば、昔かなり、淫魔生活を満喫していたらしいが…。
「怜司君もバニーやってくれたらよかったのに。かっこよかっただろうな~見たかったな~」
マスターが残念そうに言う。
「絶対やらねぇよ、なんだあの服」
吐き捨てて、怜司はグラスを口に運ぶ。
店内を闊歩するその日限りのスタッフは、男も女もバニースタイルだ。
一見するとスーツをきっちり着こなしてるが、その裏に隠された秘密に怜司の目は釘付けになる。
お尻側のファスナーから覗く、丸い兎しっぽ。
見た目ではわからないが、あのスーツの下で、しっぽのプラグが内部に挿し込まれている。
そう、アナルプラグだ。
歩くたびに微かに揺れるその丸いしっぽが、怜司の視線を否応なく誘う。
「絶対あんなもんつけねぇ、俺は」
「えー?だめー?ちょっとアナルに挿すだけだよ。悠君はNGないのになぁ」
マスターが残念そうに笑い、シェイカーを揺らす。
噂をすれば。
フロアの奥、ギラギラした光が乱反射する中で、随分とスタイルのいいバニーボーイがソファの横を歩いていく。
――悠ゆうだ。
黒のボーイスーツに耳カチューシャ、お尻で丸い兎しっぽがちょこんと揺れる。
怜司の目は吸い寄せられるように、そのしっぽを追ってしまう。
(なんで俺が、男のケツなんて気にしなきゃならねーんだよ。……やらしい腰しやがって。なんだお前、どういうノリでそのしっぽつけてんの?ええ?)
だって、あれが内部で動いてるってことは、歩くたびに悠の柔らかな内側をかすめてるってことで――
怜司の胸がざわつき、グラスを持つ手が一瞬強張る。
見ているだけで、悠の中を思い出してしまう。
しかもマスターが考案した「バニードリーム」というカクテルが、この夜の最低なルールを加速させて、なおさら気に入らない。
一杯頼めば好きな「兎さん」をおさわりでき、膝に乗せたり、ゲームに付き合わせたり…。
呑みきった杯数でサービスはエスカレートしていく。
おさわり、膝乗り、胸元で遊ぶ、粘度の高い特別カクテルを肌に垂らして舌で楽しむ。
そして「ブロウジョブ」――口淫をイメージした下品なカクテルで、手を使わずショットグラスを口で咥えて一気飲みする。
生クリームが乗っていて、まるで精液が泡立ったみたいに口の端に残り、淫靡な雰囲気を煽るカクテルだ。
すでにフロアのあちこちでバニースタッフが客に接客をしていて、汗と酒に濡れた肌が薄光りに照らされている。怜司は眉をひそめる。
(NGなしだと…?)
気に入らないのはそこだけじゃない。
女の悠ならまだ許せるかもしれないが、男の悠がバニーとして客に媚びる姿に、妙な苛立ちが募る。
悠と遊びでセックスをしてからというものの、言語化できない感覚がくすぶって仕方がない。遊びと称して何度抱いただろう。
身体を重ねる程、「男の悠を攻められるのは俺だけでいい」と、変な執着が怜司の胸に根を張っていた。
実際、悠が男と寝たことなんてないんじゃないか?
(アナルは初めてって言ってたし)
そう想像するが、
「NGなしなら…誘われたら男とも寝るのか?」
と頭を過る。
――嫌すぎる。
怜司の視線がフロアを彷徨うと、悠が客の膝に座る姿が目に入る。
客がいたずらに腰を突き上げ、悠のお尻を押し上げるように揺らしている。
強く、弱く、悠の腰を掴まえて、酔っ払いが、笑いながら。
その動きに合わせて丸いしっぽが微かに跳ねる。
(何だよ、この気分。胃がむかむかする)
心の中で唸り、グラスを煽って喉に流し込む。
あんなものを挿していたら悠だって平常心じゃいられないはず。
なのに悠は平静を装い、涼しげな笑みを浮かべているのか?
怜司とバチっと視線が絡んだ悠は、目を妖しく細めて、挑発するように口端をあげる。
(なんだあ?あいつ…)
「マスター、もう一杯。オリーブいらねぇ」
「今日はえらく飲むね。客として有難いけど」
差し出されたグラスを片づけて、新しいマティーニグラスを用意しながら、マスターが茶化すように笑った。
「あー…悠君かな?」
「は?別に何が?え?」
切れ気味に返されて、マスターはニタニタしながらバースプーンでステアし、答えを待つような視線を投げかける。
その時、フロアが「わあっ」と湧いた。
見れば、バニードリームを10杯飲んだ男が、べろべろになりながら悠の胸元に粘度の高いカクテルを垂らしていた。
しなやかな筋肉が覗く胸を突き出してのけぞる悠が、怜司の視線に気づき、目を合わせてくる。
粘つく液体が胸筋を伝い、汗ばんだ肌に絡みつき、挑発的な視線が絡み合って、怜司の胸の熱い疼きが刺激される。
他の男に素肌を舐められる悠を見てるだけで、嫉妬で煮え滾り、欲望が抑えきれなくなる。
(わざとやってんだろあいつ…っ。冷静になれ、悠は普段からサキュバス体で男とヤってんだ、舐められるくらいどうってことないんだろ?別に、男の姿で、男に媚びるのだって、どうってこと――…)
「あああああああああっ」
「あ!怜司君壊れちゃった!」
イライラが限界に達した怜司は、マスターにバニードリームを5杯オーダーし、一気に飲み干すと悠を指名した。
「かっこいいー怜司君!」
マスターが面白がって拍手をするが、怜司の目には悠しかもう映っていなかった。
悠が目の前に現れると、用意されたカクテルをカウンターに滑らせて指示をする。
「手ぇ使わず口だけでショットグラス咥えて飲め。ブロウジョブだ」
悠はカウンターに置かれたそれに向き直り、後ろで両手を組む。
「OK。じゃあ、怜司。俺から目を逸らすなよ」
微笑んでから、下を向いてショットグラスの縁を口で咥えて覆い、一気にあおる。
のけぞった喉がごくごくと波打ち、飲み干すと生クリームがまるで精液が泡立ったみたいに口の端に残った。
一体今夜何倍目のブロウジョブなのか。慣れた様子で泡を舐めとる仕草があまりにも色っぽく、うっすら色づいた肌がなまめかしくて仕方がない。
怜司の目が悠の動きに絡め取られ、鼓動が早まる。
「サービスなんで、5杯分…50秒おさわりいいですよ」
カクテルの香りがする唇を寄せて悠が囁き、手元の懐中時計を確認しながら怜司に接待を始める。
怜司がしっぽに軽く触れると、カウンターに手をついた悠の腰がほんの微かに揺れる。
俯くうなじを桜色に染めるその反応に、余計苛立ちが募る。
(お前、これでずっと感じてたのかよ、エロウサギ)
心の中で唸りながら、しっぽをパンパンと叩き始めた。
「はっ、あ…ッ」
悠がカウンターにもたれかかり、叩かれるたび我慢するような吐息を漏らして腰を震わせる。
「ん…っ」と小さく鳴る喉が、怜司の胸をさらに熱くさせた。
(馬鹿じゃねぇの、こんな仕事)
苛立ちが止まらず、怜司はしっぽをグリグリ動かして悠を弄ぶ。
テールがお尻に食い込み、プラグが内部を抉るたび、悠の腰がビクッと跳ねた。深呼吸するように吐く息すら、小刻みに震えていやらしい。
「あと何秒だ?悠」
「3、0秒…」
「あとどのくらいでイクかって聞いてんだよ、ビッチ」
耳元で囁くと、悠の喉がごくりと鳴り、身体がビクッと震える。
パンパンとしっぽを叩かれそのままドライでイってしまった悠が、逆に怜司の首を掴んで引き寄せる。
「あとで、俺のここをめちゃくちゃにしろよ。終わったら、掴まえにこい」
熱くささやかれ、怜司の目が燃える。
その後も悠はフロアで大人気で、あっちこっちで客を接待し、怜司の視線を挑発するように絡めながら、バニードリームのサービスを続けている。
客を接待する姿を見る度、怜司の胸が疼く。
長い長い時間のように思えたイベントが終わり、怜司はマスターに特別待遇で部屋を借りる。
仕事を終えた兎を一匹掴まえて、もつれ込むために。
-続く-
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