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第15話 PVⅠ『謎』 ♯TruthAndProof考察
チーム結成から数週間後の金曜日の夜。
街が、一日の終わりを告げる喧騒に包まれる頃、無数の携帯の画面の上で、小さくても確実に熱狂的な嵐が生まれていた。
公開されたばかりの、個展『Truth & Proof』の予告編ショートフィルム第一弾。その、あまりに静かで、挑発的な始まりに、
スタイリッシュで、少し物悲しいピアノのBGMが流れ始める。
画面いっぱいに映し出されるのは、一台の携帯。その液晶の中で、U-sagiとmazeが、親密そうに笑い合っている『共響』のメイキング映像が、音もなく再生されている。誰もが見慣れた、あの仲睦まじい光景だ。
だけど、カメラがゆっくりと引いていくと、その隣から、すっと、もう一台の携帯が現れ、画面が重なる。
そこに映し出されているのは――例の、『惚れバレ写真』。
一年半前のイベントで、玲二を、愛おしさに満ちた瞳で見つめる、誠の横顔だった。画面の隅に『1.5 years ago』という、無機質なテロップが浮かび上がる。
過去と、現在。
mazeの隣で笑うU-sagiと、その玲二を見つめる誠。
二つの画面は、重なり合ったまま、ゆっくりと闇に溶けていく。
そして、静寂の中、白い文字が浮かび上がる。
――詳細は、後日。
最後に、クレジットが表示された。
Artist: U-sagi
Special Guest: maze
Producer: Makoto Ikuina
わずか十五秒。でも、その映像は、あまりに雄弁で、そして挑発的だった。
その再生が終わった後、人々はそれぞれの場所で、同じ物語の断片を手に、熱に浮かされたように、一斉に言葉を交わし始めたのだ。
『見た!?やばい、鳥肌立った……!』
『見たよ!っていうか、やっぱり『maze』、かっこよすぎる…。U-sagiと並んでるときの空気感、もう本物じゃん』
『あの誠って人……。怖すぎ、完全にストーカーの目立った』
『1年半前からってこと?』
『つけまわされてるんだ…。職場にもきちゃうんでしょ。なんかもう、可哀想になってきた、玲二くんが……』
彼女たちの世界では、物語の配役はすでに決まっていた。悲劇の主人公『U-sagi』と、彼を支えるヒーロー『maze』、そして、その二人を脅かす、得体の知れない影。
『やっぱり誠って奴がストーカーだったんだ!』
『『maze』くんとU-sagiが可哀想……』
世論は、一気に「誠=悪者」説へと傾いた。でも、その嵐の中で、冷静に画面の隅々まで分析する者たちがいた。ショートフィルムの最後に、一瞬だけ表示されたクレジットの最後の一行に気づいた「探偵」たちが、反論ののろしを上げだした。ハッシュタグ「#TruthAndProof考察」は、瞬く間にトレンドを駆け上がった。
『待て、早まるな。映像の最後のクレジットをよく見ろ。『Producer: Makoto Ikuina』だぞ。これは壮大な自作自演であり、誠からの挑戦状だ』
『それこそ深読みしすぎ!プロデューサーの権力使って、自分を無理やり玲二くんたちの物語にねじ込んでるだけでしょ!嫉妬って怖い!』
『惚れバレ写真の日付と、『maze』とのコラボの時期が合わない。時系列が操られてる』
『“真実と証明”って、俺たちが今、試されてるってことか…?』
「誠=悪者」説と、「誠=仕掛け人」説。 二つの巨大なうねりが、SNS上で激しくぶつかり合い、議論は過熱。それは、もはや単なるゴシップではなく、誰もが参加する巨大なミステリーイベントと化していた。
その嵐の中心で、誠と玲二は、自分たちの部屋で、静かにタブレットの画面を見つめていた。
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