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第4話
4.
「甲冑、着替え、軽食と飲み物と……あと大量の果物」
本日の戦利品を、安宿の棚の上に並べていく。
……しかしなぁ。
俺はチラッと部屋の中を見回した。
小さなテーブルと椅子が二脚、申し訳程度のクローゼットに奥の扉はシャワールームだろう。そしてベッドが、1台。
節約の為とはいえ、まさかあの狭いベッドに男2人で寝るのか。
宿屋のおばちゃんも「ほんとにいいの?」って言いながらニヤニヤしてたし……完全にカップルか何かと勘違いされてるよ、アレは。
軽く頭を抱えながら、床に置かれたそんな部屋には不相応の、上等な黒い甲冑を手にする。
「掘り出し物だったな、それ。普通小金貨1枚じゃ買えないだろ」
先にシャワーを浴びていたはずのアーサーが、いつの間にか後ろに立っていた。
「本当になー! 造りもしっかりしているし、店主は『これと言って特徴もないから売れ残っちゃってねー!』って言ってたけど……シンプルで俺は好きだけどな」
細工のない、言ってしまえば地味な甲冑を見つめる俺の目は、きっと輝いているのだろう。騎士団の頃は真っ白な甲冑ばかり身に付けていたが、新しいこれはアーサー・オブ・ダークと同じような漆黒。新鮮な感覚が更に心を弾ませた。
「真っ黒な甲冑か……お前の白い肌に良く合いそうだ」
ぎゅっ、と後ろから暖かいものに包まれる。
「……な、なに!?」
気付けばアーサーの腕が腰に周り、頭ひとつ分より高い彼の大きな身体に、すっぽりと収まり抱き締められていた。
ドクンドクンと心臓が大きな音を立ててるのが、自分でも分かる。
「どうした? 耳まで赤くなって……かわい」
カプっと彼が耳を甘噛みすると、ビクッと態とらしく身体が跳ねる。
「……っ! ちょ、俺もシャワー浴びてくるから!!」
慌ててその腕からすり抜け、アーサーの方を見向きもせず逃げるようにシャワールームへと逃げ込む。
手前の脱衣所で手荒く衣類を脱ぎ去り、シャワールームに入るやいなや、腰が砕けたように崩れ落ちた。
「なんで……なんでこんな、ドキドキすんの」
先程まで使われていたシャワールームの中には、まだシャンプーの良い香りが漂っている。ふわっと同じものがアーサーから香ったのを思い出し、慌ててシャワーを捻った。
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「おかえり。さっぱりしたか?」
備え付けのバスローブを身に纏い、髪をタオルで拭きながら部屋に戻ると、ギルド案内のチラシを手にしたアーサーが例の果物を食べ終わる所だった。
「あぁ……ってか、ほんと気に入ってんだな、その果物」
「程よい甘さと酸味が丁度よくてな。今度何て名前の果実なのかを調べておこう」
指に付いた果汁を舌先で舐めとる姿が余りにも妖艶で、ついそれから目を離せなくなる。
そんな様子を知ってか知らずか、手にしていた紙をベッドサイドに置いたアーサーは、ニヤリと笑いながら「こっちにおいで」と手を広げている。
1つしかない狭いベッド、2人ともバスローブ姿。
……変な気がないとしても、やはり妙に緊張してしまう。 いや、俺が意識しすぎなのか?
――それもこれも全部、アーサーがあんな、キスするから……
思い出すと途端に唇がカッと熱くなる。
椅子に座ればいいものを……吸い寄せられるように、白いシーツの敷かれたベッドへと足を向けてしまった。
「今日はしてくれないのか? いつもの愛撫」
ちょこん、とアーサーの隣に座ると、すぐさま全身を強く抱き締められる。
「近い!」と身体を遠ざけようとしようものならば、腕の力が痛い程に強くなるので、諦めてその腕の中に収まることにした。
「手入れな……しようも何も、その姿じゃやりにくいというか……」
俺が日課で行っているのは剣の手入れであって、男の身体を撫で回すものではない。
「ふーん? ならこの姿ならば良いと」
スっとアーサーの気配が消えたかと思えば、ベッドの上に1本の黒剣が横たわっていた。
「それなら……ま」
剣の手入れは日課、もはや生活の1部となっている。布で擦った後に輝く姿……あれを見るのが何もと堪らず、言いようの無い幸福感に包まれる。
「その姿ならば」と立ち上がり、先程甲冑を買った時店主に頼んで付けて貰った、手入れに使う布を棚から取る。
それを片手にベッドに戻ると、剣身を上から丁寧に拭き始めた。
……どうしよう、やりずらい。
やっている行為自体はいつもとなんら変わりのない事だが、人間の姿を知ってしまった今となっては調子が狂う。
「今拭いているここって、身体のどの部分にあたるんだろ」なんて考えが嫌でも過ぎってしまい、いつものように手を滑らせる事が出来ない。
あー!! なんだよ俺、欲求不満のガキかよ。なんでこう、考えがあらぬ方向に向かってしまうんだ……正気を保て!
そう自分に言い聞かせては見るものの、それもこれも人間になったアーサーの異常とも言える色気が悪い。
あんな色香振り撒かれて、正気でいる方がおかしい……って何考えてんだよ、相手は男だぞ。
『手が止まっているが?』
「へ? あ、あぁ……ごめん」
流石にもたついていた様子を彼に悟られたのか、それまで黙っていた剣が声を上げる。
慌てて手を動かし始めると『ふっ…』と、表情が容易に想像出来そうな声が飛んできた。
『……今、どこ拭いているんだろって、考えてたろ?』
「ふ、ふぇ!?」
頭のてっぺんから出たような声が、それを図星だと悟っている。いや、エスパーかよ。
『分かりやすくて可愛いな。ならば、正解を教えてやろうか』
「は、ちょ、……何言って?」
焦る様子を他所に、いつの間にか手に触れていたゴツゴツした無機質の感触が、柔らかく暖かいものへと変わる。
俺の手が触れている場所。それは丁度、彼の逞しい内腿にあたる場所だった。
「ずっとここを撫でていたんだよ、ロアは。こうやって」
膝上辺りに置かれていた手にアーサーの手が重なり布を抜き取ると、そのまま内腿を伝いバスローブから覗く股の辺りまで動かされた。
「んひっ……!」
思わず口から聞いたことも無いような変な声が出る。
だってそこには、熱源とも言えるような熱い熱い、ご立派なモノが君臨されていたから。
「今日もとても良い愛撫だった。お礼に、お前にも同じ事をしてやるよ、ロア」
真っ赤な顔で震えていると、そんな恐ろしいセリフが聞こえてきた。
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