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第8話
8.
木の影に隠れ、一先ずファフニールの動向を伺う。
――俺を探しているのだろう、威嚇の咆哮を上げながら周囲を嗅ぎ回っている。
「いや、これで小金貨3枚とかヤバすぎだろ。ましてや2人でって、大金貨10枚以上……なんなら国を上げての表彰もんだよ」
思わず口から溜め息が漏れる。
なんだろうな……ツイてない事が多すぎやしないだろうか。
『ならばギルドまで戻り、違う任務を再受注するか?俺はそれでも構わないが』
頭を抱える様子から何かを察したのか、アーサーかけてくれた言葉に首を横に振った。
1度目を閉じ、大きく深呼吸をして再び瞳を大きく開く。
「いや……騎士たるもの、そう簡単に逃げ帰るなどあってはならないことだろ」
祖父はいつも言っていた。強靭な敵からは絶対逃げるなと。逃げるなど、騎士には有るまじき行為だと。
俺はそんな祖父に憧れて、騎士になったんだ。ここで逃げ出す事なんて絶対に出来ない。
『ふ……お前はそう言うだろうと思っていた。そうだな、俺を盾に懐に飛び込んで一気に叩く、と言うのが1番だろう』
「アーサーを盾に……? まぁ、奴の最大の攻撃はあの毒液。それさえどうにかなれば叩く事は可能だし、1度吐けば次が来るまで少しの猶予がある。でも……」
その立派な剣身をじっと見つめる。
確かにアーサーは無機質な物体。毒がかかったとて腐る事はないだろう。
でも……1度、人間の姿を見てしまった俺からすれば…どうしても|躊躇《ためら》ってしまう。
『安心しろ。1度毒に当たるくらいなら、俺はなんてことはない。飛び込んだ懐で首を狙い一気に切り落とす。…まぁ、失敗したら終わりだがな』
「俺の身体能力とアーサーの斬れ味に全てを任せる…といった感じか。滅茶苦茶な脳筋作戦だけど…まぁ、他に思いつく案もないし、それでいこう」
決意を固め、ぎゅっと両手で柄を握る。
『ロア』
「ん? 何……」
改まって名前を呼ばれ、不思議そうに首を傾げる。
『何があっても、お前の事は俺が絶対守ってやる。だから心配するな』
「……っ!! わ、分かった……たの、む……」
この大きな大きな心音は、手を通じてアーサーに伝わってしまっているのだろうか。
いま1度深呼吸をして心を落ち着けると、勢いよくファフニールの前に飛び出して行った。
予想通り、俺の姿を見付けたファフニールは勢いよくこちらに毒液を吐き出してきた。
それに向かって走りながら、顔の前に翳したアーサーの剣身で毒液を受け止め、そのままの勢いでファフニールの首元に飛び込む。
高く飛び上がり、大きな剣を勢いよく振り上げ、ファフニールの首元へと叩き込まれるアーサー。
……くっそ、堅い。
ギギギ! と音を立て剣は首元に食い込むが、そこを覆う堅い甲殻に阻まれ切り落とすまでにはいかない。
これ以上行かない……やはり一撃では無理だったか。長期戦になれば圧倒的に不利になる、どうすれば……
『ん……?』
眉を寄せ考えを巡らせていた、その瞬間…アーサーが妙な声を上げると同時に、剣が黒紫色の光に包まれる。
「アーサー……?」
光は段々とその強さを増していく。
あっという間に凄まじい黒光を纏った大剣は、あれ程堅かった甲殻をいとも簡単に貫通してゆく。更に直視出来ない程に光が強くなってきたかと思えば、その場に紫黒い光の柱が昇り、あっという間にファフニールの身体を切り裂いた。
ドォン! という轟音と共にその場には2つに分かたれたファフニールの身体が崩れ落ちて行った。
「……え?」
今起こった事が、理解できない。
確かにアーサーは『魔剣』ではある、が。
ただそれは魔力が宿った剣という意味ではなく…剣としての性能が良い為にその名が付けられたと聞いていた。
当然ながら、今までこのような魔法じみた事が起こったことはない。
だが、あの瞬間……確かにアーサーから魔力を感じた。
「……っ?」
「アーサー! 大丈夫か?」
人間の姿に戻ったアーサーも、信じられないといった様子で、自分の手のひらをじっと見つめている。
「あぁ、大丈夫だが……今のは……っっ!?」
突然アーサーが頭を押さえ、その場に蹲る。
「アーサー!?」
そんな姿に目を見開き急いで彼に駆け寄ると、しゃがんで顔を覗き込んだ。
瞳孔を開き、はぁはぁと荒い息を口から出すアーサーの姿は普通の状態とはとても思えない。
「アーサー、どうした大丈夫か!?」
「……れ、……っ、う……」
「……れ?」
青ざめ震える彼の唇が、単語とも思えない言葉を発する。どうする事も出来ずに、俺は必死でその震える背中を撫で続けた。
段々と息が落ち着き、彼の様子がいつものものへと戻る。
「悪い、もう大丈夫だ。心配かけたな」
頭を押さえていた手を取り払い、眉を下げ今にも泣きそうな俺にアーサーはにこりと微笑みかけた。
「ほ、本当か!? 他に痛いところはないか?」
声を裏返しながらそう問いかける俺の頬を、アーサーは大きな手で撫でる。
「本当だ。……そんな可愛い顔していると、今すぐこの場で食べてしまうぞ?」
不安が色濃く浮き出る眉間にアーサーは、ちゅっと音を立ててキスを贈り、そのまま唇へも同じように優しく口付ける。
「だ、大丈夫なら……それで、いい」
恥ずかしそうに目を伏せていると…アーサーはもう一度キスしてくれた。
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「うっわー! まさかまさかのファフニールでしたねぇ」
ギルドに連絡し、実は担当者になったらしい、あの元気な受付嬢が現場へと駆けつけ、その死骸を興奮気味に確認している。
「あぁ。ファフニールはS級以上のモンスターだろ。流石に小金貨3枚のままとはいかないよなぁ……?」
「いえ、3枚のままですね!」
俺の問いかけは受付嬢によって即座にバッサリ斬られてしまった。
「まじか、まじかよ……」
「まー、でも一応王宮には報告致しますので! もしかしたら、特別報酬なんか出るかもしれませんねぇ。望みは薄いですけど」
彼女の最後の一言が、既に絶望を告げていた。
予定通り小金貨3枚を2人分……計6枚を受け取り、悲しい足取りで元いた宿屋へと舞い戻った。
「本当に大丈夫なのか?」
シャワーを出てきたばかりのアーサーにベッドに座ったままそう声をかけた。
「心配はない……が、面白い事が分かった」
俺の前で恥ずかしげも無くバスローブを脱ぎ捨てたアーサーは生まれたままの姿。彫刻の様な身体を惜しげも無く披露し、バキバキに割れた腹筋の下には臨戦状態でなくともご立派なソレ。
思わず昨夜の情事を思い出した下腹部が、きゅっと熱を持つ。
目を背ければ良いものの真っ赤な顔で、じっとその姿を見つめる熱い視線に気付いたアーサーは、手にしていた服をイスに掛け、その姿のままこちらへ近寄ってきた。
「……な、なに?」
軽い抵抗も虚しく、そのまま身体をベッドに押し倒される。
「いや、物欲しそうな顔をしていたからな。期待には応えていかないと」
「い、いや、ちょ……飯食いに行くって」
前のボタンを全部外され、既にアーサーの唇は俺の首筋に吸い付いている。
「多分、もうひと運動したほうが、飯が美味しくいただけると思うぞ?」
「は? ちょ、っ……ぁっん、っ……」
首筋から胸元へと這う舌先が、胸の突起を捉えたかと思えば、そこをぺろ、ちゅぱっと舐め始める。
大人しく見えたアーサーの下腹部は、いつの間にか戦闘状態に切り替わっている。
そして悲しいかな。
快楽を覚えたての身体はあの悦びが欲しいと、前はパンパンに膨れ秘部がキュンっと疼く。
結局俺は……もう一度シャワーを浴びる事となってしまった。
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