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第11話

11. 「おふたりとも、毎日毎日精が出ますねぇ!」  すっかり顔馴染みとなったギルド担当嬢セイラは、今日も元気に俺たちに挨拶を送った。  もはやスレインの常連になりつつある俺たち。今日は幻想花採取の簡単な任務だったので、袋に入れたガラスのような花をセイラさんに渡した。 「そういえばお2人、|巷《ちまた》で話題の占い師の話、知ってますか?」 「占い師? ……いや、聞いた事がないな」  アーサーがカウンターで任務完了の書類を書いている横で、俺は首を傾げた。 「なんでもめっちゃくちゃ当たる占い師が、最近ベルデに居るらしいんですけど……どうやら神出鬼没らしくて、中々出会う事が出来ないんですよねぇ」  セイラさんは人差し指を宙に向けて熱弁してくれるが、申し訳ないくらいに興味がない。 「占いか……それは興味あるな」  俺の冷めた目線とは対象的なアーサーの言葉に、思わず勢いよく首を横に向け目を見張った。  書き終えた書類をアーサーから受け取ったセイラさんは「キラキラ」という効果音が見える程に目を輝かせている。 「おお! アーサーさんは興味ありますか!! さすが、モテる男は違いますねぇ~」 「なんでだよ……って、まじで興味あるのかよ」  アーサーの代わりにセイラさんにツッコミながら、信じられない物を見るような視線を感じたアーサーは、俺の表情に苦笑している。  だって……まぁこれは偏見なんだけど、アーサーって「占い? そんな根拠の無いもの何で信じるんだ?」とか言うタイプだと思ってたから…… 「なんでそんな不審な目で見てるんだよ。占いは古代からある物だろ? 当たる当たらないはさて置き、その技法に興味がある」  アーサーの解答に、セイラさんは「思ってたんと違う」と肩を落とし、俺は「なに、それ」と笑った。 「ま、まぁ……霧がかった夜、細い路地に鼻の下まで深くローブを被った女性がいたら、それがその占い師なので! お2人の未来でも、占ってみたらどうですかねぇ?」  ニヤニヤしながらそんな事を言うセイラさんに「なんでだよ」なんて言いながら、スレインを後にした。 >>> 「すっかり遅くなっちゃったな……ごめんな?俺が少し遠くの薬屋に行きたいなんて言ったから」 「ん? 別に良いだろ。欲しい薬が手に入ったんだから。それにまだ、いつものレストランはやってる時間だ。飯でも食って帰るとしよう」  スレインからの帰り道、寄り道のせいですっかり暗くなってしまった帰路をアーサーと並んで歩く。  いつもとは違う石畳の帰り道。この道は街灯が少なく、人通りも殆どない。少しばかり薄気味悪さを感じ、ついアーサーの腕に腕を絡ませながら歩いていると、急に辺りが白いモヤに包まれた。 「えっ、霧……?」  周りを見回すも、すっかり暗くなってしまった状態での霧。隣に居るアーサーの存在を確認する事は出来るが、それより遠くは何があるのか全く見えない。 「珍しいな。ベルデは年間通して気候も穏やかで、霧が出るなんて滅多ないと思っていたが…」  ふと、先程セイラさんに聞いた占い師の話を思い出す。 「まさか、ホントに出たりして……噂の占い師」 「ほう。ならばロアとの相性占いとやらをやってもらうか。悪い結果が出たら覚悟してもらおうか、その占い師にはな」  「いやなんだよそれ」と声を出して笑いながら、左手に細路地のある道を通り過ぎようとした時。  赤いローブを被り、小さな机に置かれた不思議な色の玉に手を挿頭す占い師が、霧の向こうに……いた。 ホントにいたんだがー!!  嘘だろ……まじかよまさか会っちゃうとか、ある?  一度は通り過ぎたものの、アーサーも気付いたのかそのまま後ろへと戻る。 「よく当たると噂の占い師か? もしそうならば俺たちの相性を占ってくれ」  間髪入れずにそう話し掛けるアーサーに「そんな単刀直入にぃ」と心の中で叫んでいると、その占い師が「どうぞ」と、机の前に置かれていた2脚の椅子に俺たちを招く。 「おふたりの相性を視れば宜しいですか?」  女性とも男性とも取れない不思議な声をしたその占い師は「ではお二人でこの玉に手を置いてください」と、黒光りする手のひらよりも大きな球体を触るよう促された。  少し緊張した面持ちの俺は右手、興味津々の顔をしたアーサーは左手で、その玉に一緒に触る。  次の瞬間……その黒玉は、粉々に弾け飛んだ。 「……はぁぁ!?」  叫ばずには居られないだろ。そんなこと……ある!? え、何……玉も拒否するくらい相性最悪って事?  誰が見てもわかる程にオロオロする俺の肩を抱いたアーサーが「落ち着け、ロア。大丈夫だ」と宥めてくれた後、占い師に鋭い視線を送っている。  ……あ、これはもう殺る気満々の目なのでは? 「凄い……黒水晶も受け止められない程の強大な愛のパワーを感じます」  ショックでガクガクと揺れていた所から一転、チョロい俺はそんな占い師の言葉に、ぱぁぁと顔を綻ばせる。 「えっ、そっち?」 「ええ。ご安心ください。貴方達は切っても切れぬ縁。どうぞお互いを信じて、生きていきなさい」  占い師がそう言った瞬間、西から突風が吹く。 「……っっ!!」 思わず目を閉じてその風を交わし、次に目を開けた瞬間……その占い師は、跡形もなく消え去っていた。 「夢でも見たのかな」  「なぁ? アーサー」と彼の方を向くと、アーサーは自分の手をじっと見つめたまま固まっている。 「あの水晶……」  ボソッと何かを呟いたようだったが、俺の耳にはそれが上手く聞き取れなかった。 「ん? なんて ?」 「いや、なんでもない。何だったんだろうな、あの占い師」  すぐにアーサーの表情はいつものものに戻ってはいたが…占い師よりもアーサーの様子が気になってしまい、暫くは彼の事から目が離せなかった。 >>> 「やっぱ夢だったのかな?」  結局、他の路地も覗いて見たりしたが、占い師の姿は見当たらず。  狐に包まれたような気分のまま、俺たちは行きつけのレストランで遅めの夕食を摂った。 「まぁ、占い師の件は気になるところだが……それより、スレインでは『占いなんて信じてない』なんて態度だった割に、一喜一憂していたロアの姿は可愛かったな」  出された飴色のスープを口に運びながら、アーサーは思い出したかの様に顔を綻ばせた。 「だ、だって……! あんな事あったら、びっくりするだろ」  こんがりと焼かれた鶏肉をナイフで切ると、俺はそれを少し乱暴に口へと運ぶ。 「俺と相性が悪いと言われるのが怖かったか?」 「……っ!!」  雑に咀嚼しただけのそれが、思わず喉へと流れ込み…その苦しさに思わず噎せた。 「大丈夫か? ほら、水飲め」   耳まで真っ赤にして咳き込む俺に、水がたっぷり注がれたグラスをアーサーは差し出す。 それを思い切り飲み、余裕綽々な顔で食事を続けるアーサーをジトッの睨んだ。 「アーサーは……」 「うん?」  蚊が鳴くような声に、彼は顔を上げる。 「アーサーは不安じゃなかったのかよ……あんな、玉割れて、相性最悪なんじゃないか、とか」 「そうだなぁ……」  彼は手にしたスプーンを置くと、ニヤリと人の悪い笑みを浮かべる。 「……?」 「相性が悪いのならば、良くなるまで愛し合えばいいだろ」 「……は?」  耳を疑った。  ごめん何言ってる?  なんだ、その、聞いたことも無いと言うか考えもしないとんでも超脳筋理論。 「例えば身体の相性が悪いなら、よくなるまでやり続け……」 「あーー! もう、わかったから!! なんだよそれ……」  慌ててそんなアーサーの言葉を掻き消すように、俺は言葉を重ねた。  何言ってるんだよ……この色男は本当に。  そんな俺の様子を「可愛くて仕方ない」という甘い表情でクスクスと笑っている。 「まぁ良かったじゃないか。結果的に相性は最高だったようだしな」 「ま、まぁ……それはよかっ、た……? あれ、何俺…相性とか気にしてんだ…?」  まだ少しだけ残ったグラスの水を飲み干し、どうにか火照った身体が冷めるのを待った。  

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