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第12話

12.  そんな占い師の一件から、数日経ったある日のこと。 「さて、と……今日はどんなプレイをするかな」 「普通でいいだろ普通で!」 「俺は構わないが……ロアに飽きられたらたまらないからな」  そんな他愛もない話をしながら、今日も元気に任務を終え宿屋の部屋に戻り、帰りがけに買った日用品の数々を棚に並べていた。  手元の資金は現在小金貨12枚ほど。  目標とする金額の半分にもまだ満たないが、何となくここの暮らしにも慣れてきた。  宿屋の夫婦も良い人で「連泊だし、2人ともいい男だからサービスだよ!」なんて冗談めいた事を言って格安で宿泊をさせてくれているし、よく行く近所のレストランの飯は優しい家庭の味がして、本当に美味い。  常連になった商店のおばちゃんも「オマケだからもってきなー!」と色々サービスしてくれるし、武器屋のおっちゃんとはたまに酒場に飲みに行く仲。 初日にアーサーにあの黄色い果物をくれた果物市のマダムも「アーサーの顔拝むだけで寿命伸びるからねー」なんて言いながら、時々宿屋に色々な果実を届けてくれていた。  いつの間にかベルデのこの街は、人生の中で最も穏やかな生活を送れる場所になり、ついつい「このままここで、アーサーと生きていく人生でもいいんじゃないか」なんて思い始めてしまった。  あれからアーサーの記憶は戻る素振りを見せない。 それならそれで焦る必要はない。アーサー自身もそう言ってるし。 何より、戻らなければこのまま一緒に居られる。  ……そう思い始めた頃、だった。 「じゃぁ、俺先にシャワー浴びるから」 「ん、ゆっくりしてくるといい」  そう言ってシャワールームに向かおうと、アーサーに背を向けた時。  ガシァァン! とテーブルが倒れる音が派手に響き、慌てて振り向く。 「えっ……アーサー!!」 床に膝を付き、肩で息をしながら頭を押さえる彼に急いで駆け寄った。 「……っ、は……っ、は……」 「大丈夫か? ……おい、アーサー……」  苦しそうに目を見開き、呼吸が異常に荒い。  前回よりも発作が激しくないか……?  オロオロしながらも心配そうに背中を摩ると、彼の青ざめた唇がゆっくりと動く。 「……レー、ファウ……」 「えっ……?」  レーファウ……誰かの名前か?  心当たりの無い言葉にただ呆然としていると、ハッとアーサーが肩を揺らす。そして次第に瞳孔が開ききった目に光が戻り、息遣いも段々元通りになり始める。  「もう大丈夫か?」と顔を覗き込むと、いきなり強い力で抱き締められた。 「ちょ……!? アーサー……っん」  荒々しいしく唇が重ねられたかと思えば、舌を捩じ込まれ口内を貪られた。  その行動は、普段よりやや乱暴にも感じるが、いつも以上に何だか俺を求めている気がして……  アーサーの首の後ろに腕を回し、自分からも舌を絡め、舌先を甘噛みした。 「……っ、は……ロア、ロア……っ……」  1度唇を離したアーサーの表情に、思わずドキッとした。  欲に塗れたその強い視線が、熱く俺を射抜く。  ――あれ……アーサーって、確かにかっこよかったけど…|こ《・》|ん《・》|な《・》|に《・》、かっこよかったっけ。  互いの唾液で濡れた口元が妙に厭らしく…腹部がキュッと何かに掴まれたような感覚に陥る。 「……アーサー……」  彼の熱に俺自身も侵されてしまい、鼻を擦り合わせもう一度キスを強請ると、アーサーはすぐさまそれに応え熱い口付けを交わしてくれる。  舌を吸い、舐め合い、唾液を交換し合い…長時間に渡るそんなキスが漸く終わりを迎え離した互いの唇には、1本の銀糸が伝っていた。 「……ロア、俺の……愛するロア……」  |譫言《うわごと》のようにそう繰り返しながら、身体が折れるんじゃないかというくらいの力で俺を抱き締めてくる。 「どうした? アーサー、急に……」  明らかにいつもとは違う彼のことが心配になり、優しく背中を撫で様子を伺った。 「いや、何でもない。急にお前が欲しくなった」 「な、何言って……! ってか、身体は大丈夫? もしかして何か思い出した?」  そう訊ねはするが、どうしても語尾が小さくなってしまう俺に、彼は首を横に振った。 「特に何も。……そういえば、シャワーに行く途中だったな、悪い」 「そ、そう? まぁ大丈夫そうなら、俺シャワー行くけど」 「……ちょっと待て」  アーサーの様子もすっかり元に戻ったようだし、予定通り汗を流そうとした俺の服を、彼はぎゅっと握る。  不思議そうに振り返った先にあるのは、色男による極上の微笑みだった。  

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