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第14話

14.  デレ期、というものの訪れなのだろか。  俺の身体は、起きてからずっとアーサーから離れようとしない。 「どうした、ロア。心配しなくても、俺はどこにもいかないが?」  水を飲もうとアーサーが立ち上がれば、それに付いて立ち上がり後ろから抱き着く。  彼が振り返り「ロアも飲むか?」と自分の口に含んだ水を飲ませようものならば、素直にそれを受け入れる。 「俺が聞きたい……身体が勝手に、アーサーから離れる事を拒否してる」  コクンと水を喉に流し込むと、眉を下げて彼を見つめた。 「ふぅん? まあ、それは大歓迎だが」  それはそれは嬉しそうな笑顔で、アーサーは俺の事を抱き上げる。 「でも、ギルドに行かなきゃ。なんか、美味しい任務があるってセイラさん言ってたし……」  こんな状態で、任務は疎か外に出られるのかすら怪しくはあるが。 「まぁ、|あのクソバカ《ルイス》をぶん殴りに行くという目標がある限り、資金は集めなければならないしな」  アーサーの上品な顔から出る暴言を聞くのが…実は最近の楽しみになりつつある。 「うん。だから、行く……離れられないけど」  抱き上げられたまま、アーサーの大きな身体に俺はぎゅっと抱き着いて、頬を擦り合わせた。 「そうだなぁ。ならもう諦めて、このまま行けばいいんじゃないか?」 「……へ?」 >>> 「えーっと……どうされたんですか?」  さすがのセイラさんも、困惑状態。 「あぁ、来る途中に軽く足を捻ったようでな。とりあえず任務の説明聞いて、その後に治癒魔法を施すのでご心配なく」 「す、すみません 」  2人で1つと云わんばかりの状態の俺とアーサーを、頭のてっぺんから爪先までじっと見られる。 「あらあら、それは大変お大事に! いやー、でもアーサーさん見かけによらず力持ちですねぇ……ちょっとびっくりしました」  結局俺は…… 「そうか? まぁ、魔術師であっても身体を鍛えるのは大切な事だからな」 「それにしても、甲冑を着たロアさんはそれなりに重いでしょう……それを抱きかかえて来るなんて!」 アーサーに抱きかかえられたまま、ギルドへと来てしまった。  当然ながらギルド内では注目の的。  あぁ、穴があったら入りたい……どうしてこんなことになってしまったんだ。  何度も離れる事を試みた。  アーサーは「別に一緒でもいいぞ」と言ってはいたが、さすがにトイレの時はどうにか離れた。それでも扉の前に座って待つ始末。  どうしたんだ、悪い魔法にでもかかったのか。  本当に、身体が勝手にアーサーの温もりを求め擦り寄って行くのだ。  しかし……セイラさんも言ってたけど、凄い筋力だよなアーサーの奴。  168センチの俺は確かに細身ではあるけど、それなりに鍛えてはいるし、ましてや甲冑も着込んでいる。  チラっとアーサーの顔を横目で盗み見る。彼は顔色ひとつ変えることもなく、セイラさんから任務についての説明を受けている。  たしかに腹筋凄いし、肩周りというか腕も筋肉凄いし……特別大きな身体って訳じゃないんだけど締まったいい身体というか、見惚れる身体。  何度も見た彼の裸体を思い出し、ぼふっと顔面が大爆発した。 「……だそうだが、どうする? ロア」  ひと通り説明を聞き終えたアーサーが、真っ赤な顔で惚ける俺を不思議そうに見つめた。 「へ? な、何が……?」 「聞いてなかったのか」  別世界を漂っていた魂が漸く現世に戻ったような俺の表情に、アーサーは軽く吹き出してクスクス笑う。その顔がまた綺麗で色っぽくて、俺の体温は最高潮まで上昇した。 「この任務は、4人で受けていただく必要があります。なのであと2人、お知り合いを呼ぶか、このギルド内にいる方に声を掛けるか……はたまた諦めるか。まぁ、ロアさんの足の治療もあると思うので、それをしながらお2人で話し合ってくださいね」  はいっ、とセイラさんが差し出した紙を呆けたまま受け取った。 「あと2人ねぇ」  ギルドの隅に置かれたソファで、形ばかりの治癒魔法を足に施しながら、|珍《・》|し《・》|く《・》|つ《・》|ま《・》|ら《・》|な《・》|そ《・》|う《・》な声でアーサーが呟いた。 「大金貨1枚ってのは魅力的ではあるが、別にアーサーがやりたくなければ別のを探すぞ?」 「いや……まぁ、いいだろ」  魔法(ふり)が終わったのか、隣に腰掛けたアーサーは肩に腕を回してきたので、遠慮なくその身体にもたれかかった。  先程渡された紙には『ダンジョン攻略・場所〇〇・必要人数4名』とか書かれていた。 「人前でアーサーが剣の姿になるのは避けたいし、何か剣を買う必要があるな」 「それもそうだな。騒ぎになると面倒だ。俺もそれっぽい何か買っておくか」  剣が人間になる、というのはさすがに常軌を逸している。  ……ん? というか、 「あれ、ていうか……剣になったアーサーを抱えていれば、俺はこんな羞恥受けずに済んだのでは?」 「あぁ、気付いたか? 可愛いからせっかく黙っておいたのに」 「ちょ! 言ってよ!」  真上にあるアーサーの顔を思わず睨み付けると、彼はそれはそれは愉しそうな笑みでこちらを見つめている。 「まぁでもあれだろ、せっかく抱くなら人間の俺の方がイイだろ? この身体、ロア大好きだもんな……特にアソコとか」  俺の耳を厭らしい手つきで撫でながら、ベッドの中を彷彿とさせるような甘い声でそう呟いたので、もう全身茹で上がってしまった。 「あのー……ダンジョン攻略、人足りてないって聞いたんですけど」  人目もはばからずイチャつく俺たちに声を掛けた勇者の声に、2人同時に振り向いた。  

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