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第15話

15  何なんだよコイツさっきから。 「へぇ……アーサーは魔術師なんですか! カッコイイですねぇ」 「そうか? ソーサラーなんてごまんといるだろ」  アーサーにベタベタベタベタと……てか呼び捨てすんなよ 「いいえ! ……こんなに美しい魔術師なんて、僕初めて見ました。しかも、凄くイイ身体……」  何うっとりした顔で、さり気なくアーサーの膝触ってんだよ!!  血管が浮き出しつり上がった目の俺は、目の前の2人のやり取りをじっと見つめていた。 「ロアさんは剣士で間違いないですか? そして、アーサーさんが魔術師、私が近接でリアンがヒーラーか……パーティで言えばバランス良いですね」  隣から聞こえてきた声で、どうにか正気を取り戻す。 「まぁ、たしかにそうなんですが……えっと……」  淡々と事を進めようとする隣に座った、黒髪で人の良さそうな笑顔を浮かべる男に視線を向けた。 「あぁ、自己紹介がまだでしたね。私はウェイド、あのピンク髪がリアン。随分昔からこのギルドの世話になってる……まぁ、古株みたいなものです」  そう言って机の上には、このギルドの登録者の証であるライセンスカードが置かれる。『ウェイド・マルク・イオニス』と書かれた顔写真付きのカードを確認し、彼らがよく分からない身分のものでは無いと一先ず安心をした。  あの時俺たちに声を掛けてきたのは、リアンと名乗る男だった。 「セイラさんに紹介されて。僕たちもちょうどダンジョン攻略したいなって思ってたんですよ~! 良かったら連れがあっちで待ってるので、詳しい話しませんか?」  と言って1人の男が既に座っている、テーブルを挟んで向かいあわせの2台のソファ席に俺とアーサーは案内された。  当然、先に座っていたウェイドの横にリアンが座るもの……と思っていたら、まさかまさかのリアンはアーサーの腕に自分の腕を絡ませて、空いている席へと誘った。 結局、空いているウェイドの隣に座る事に。  そうして目の前でイチャイチャする2人の姿をまざまざと見せ付けられているのである。  ギリッと奥歯を噛む俺なんて知りもせず、リアンはいつの間にかアーサーに抱き着いていた。  ――そうしていいのは、俺だけなのに。  そんな言葉が頭の中を占拠して、自分でも驚く程イライラする。 「で、どうします、このメンバーで突入しますか? 私はそれで構いませんが」  ウェイドのその言葉に、リアンは「おっけー!」と元気に片手を上げているし、アーサーも異論は無さそうだ。  いいのかよ、アーサー……こんな奴と一緒に、下手したら1日以上一緒にいるんだぞ? その間中ベタベタ触られて、もし夜を明かすって事になったら。 『僕、アーサーと一緒に寝るね!』なんてアーサーとリアンが同じテントになったら。  リアンは非常に可愛らしい顔をしている。最初に声を掛けられたときは、正直性別が分からなかったが声が完全に男性のそれだったので、男だと分かったくらいだ。  パッチリした目に、フワフワしたピンク髪。かなり小柄な身体は正直、顔立ちも身体付きも男らしいアーサーとお似合いだ。……それはもう、俺なんかよりも。  アーサーがリアンを抱き締める、なんて妄想をついしてしまい、ぎゅっと握った拳からチクッとした痛みが広がった。 「ロアさんもいいですか?」  じっとウェイドが俺を見つめてくる。  それまでニコニコと笑顔を浮かべていたウェイドが急に真顔になった様に「あ、返事を急いでいるよな」と慌てて頷く。 「あ、あぁ……」  アーサーも良いと言っているんだ。  俺がブランに帰りたいなんて言い出したから、その為に金集めてる訳で。ここで俺が、我儘言うのもおかしいだろ……  返事を聞いたウェイドは、ニッコリと笑い「ありがとうございます」と俺の肩をポンポンっと叩いた。  その瞬間、何故かゾワッとしたモノが俺の中に生まれる。  何だこの気持ち悪いの……アーサーが触ってもこんなの感じた事ないのに。  えも知れぬ悪寒に戸惑いながらウェイドを目で追う。 だが、彼に特に変わったところは見られず、申請書類を完成させている。  |彼《ウェイド》に原因がある訳じゃないってことは……あれか、俺の気持ちの問題か。 「どんだけアーサーに絆されてんだよ」とさすがに頭を抱えた。 「突入前に、少し準備をする時間を設けたい。2時間後、現地集合。それで構わないか」  それまで静かにしていたアーサーからそんな声が上がり、リアンを振り払って立ち上がったかと思えば、2人の返事も聞かずに彼は俺の腕を掴んだ。 「へ? ちょ、ちょっと……」  そのまま引き摺られるようにギルドの外へと連れ出される俺の姿を、2人はポカンとした顔で見守っていた。 >>>  手を繋いだまま、武器屋や道具屋、薬屋などが並ぶ通りを先程から会話の無いまま、アーサーと歩いている。  何を話そう……と、どうにかこの気まずい空気を打破しようとオロオロする俺の手が、急に強く引かれそのまま裏路地へと連れ込まれた。 「妬いてただろ、さっき」  壁に身体を押し付けられ、そのまま俺の顔の横に肘を付くアーサーが、ニヤニヤした顔で見下ろしている。 「べ、別にそんなことは……」  至極愉しそうに見下げる視線に耐えられず、思わず顔を大きく背ける。  ……顔は、とんでもなく熱い。  ふと、俺の片手を握ったアーサーが手のひらに口付ける。先程強く握り込んだ際、爪が食い込んで出来た赤い傷跡に舌を這わせながら、何か言いたげにこちらへと向けられるアーサーの鋭い視線を、頭越しに痛い程感じてしまう。 「ふーん? じゃぁ、あのまま俺がリアンを抱いても構わないと」 「はぁ!? なんでそうなる」  聞き捨てならない台詞に、明後日を向いた顔を勢いよく元に戻す。  するとその唇が暖かいものに覆われた。 「安心しろよ、俺が欲しいのはお前だけだ。身体も、心も」  ちゅ、ちゅっと角度を変えてされる啄むようなキスとその言葉は、棘を纏った果実のような心を丸く溶かしていく。  もっと強い繋がりを求めて、アーサーの背中に腕を回してしまった。 「……おれ、も」 「ん?」  消え入りそうな声をどうにか絞り出し、羞恥に染めた目でじっとアーサーを見つめる。 「……俺も、アーサーだけだから……その、あの……」  気付いてしまった。  どうして今日、彼から離れる事が出来なかったのか。  どうして、自分以外の人間が彼に触れるとこんなにも苛つくのか。  俺は、アーサーが……好き、なんだ。  愛剣だからとか、そんなんじゃない。  一人の人間として…彼を…  続きを言い淀む唇は、アーサーによって奪われる。 「……俺も好きだ、ロア。愛してるよ」  俺の代わりに言葉を紡ぎ、唇を離すアーサーの顔は、この世の何よりも美しく、そして恐ろしい程に妖艶だった。 「はー、このまま犯したい」  長い長い口付けが終わると、俺にもたれ掛かりながら彼はそんな言葉を恥ずかしげもなく言う。 「ばっ……今からダンジョン攻略するんだろ!?」 「そうだが……もう今すぐロアのことぶち犯して啼かせたい、今まで以上にイキ狂わせたい」 「ちょ、おま……何言ってんの!?」  大きな声が出てしまった。  人気のない裏路地ではあるが、誰かに聞かれてはもう融けて大地に還るしかなくなる。  慌てて周囲を見回す俺の首を、欲求不満のアーサーが先程から軽く吸っては甘噛むのを繰り返している。 「ロアー……」 「……帰ったら」  小さな声で囁きながら、アーサーの背中をポンポンと叩く。 「ん?」 「帰ったら特大サービスするから……我慢、な?」  アーサーの開かれは瞳には、眉が下がり潤んだ瞳の俺が大きく映っている。 「よし、10分で終わらせるぞ、あんなクソダンジョン」  態度が270度変わるアーサーの事を、赤い顔のまま笑った。  

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