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第25話
25.
白の外装の、可愛らしい雰囲気漂う雑貨屋のような場所。
店内は落ち着いた雰囲気で、アンティーク調の小物がオシャレにディスプレイされている。
「おや、アーサーくんいらっしゃい。……例のものかな?出来てるよ」
茶色の暖かみのある棚に置いてある小物を物珍しい顔で見ていると、奥から店主らしき男が現れそう声を掛けてきた。
「ああ、急な話だったのに悪かったな」
「いえいえ。リアンくんには何かと世話になってるからね……彼の紹介なら喜んで受けるよ」
セミロングの髪を緩く纏め、メガネを掛けた物腰の柔らかい男性とアーサーは親しげに会話を交わしている。
アーサーの奴、いつの間にこんな店に出入りしてたんだ……ってか、リアンの知り合いなのか?
自分が把握してない知らない世界が目の前で繰り広げられていて、つい面白くなさそうな顔でそのやり取りを見つめていた。
「悪い、ロア。少しだけここで待っていてくれ」
そう言って俺の肩に腕を回し流れるように額に「ちゅ」とキスをすると、そのまま奥のカウンターの方へと向かっていった。
「……っ!」
人前で何してんだよぉぉぉ! と熱い額を抑えて向こうをチラ見すると、何やら2人で話し込んでいる様子だ。
「……何話してるんだろうな」
思わず目の前に置かれた、癖のある顔をこちらに向けるクマのぬいぐるみに話し掛けた。
なんだろうコイツ……ただの茶色のクマなんだけど目の配置が少しズレているせいか、絶妙に可愛くない……だが目が離せない。
「なんだ?それ気に入ったのか」
暫くの間ソイツと睨めっこをしていると、話の終わったアーサーが後ろから声を掛けてきた。
「へ!? い、いやそういう訳じゃ……」
「おい、エイル。これも一緒に貰おう」
「は!?」
驚き顔が耐えない俺の頭を、機嫌良さそうにポンポンと撫でると、その絶妙なクマを抱きかかえたアーサーはそのまま奥へと向かっていった。
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結局アーサーはクマのぬいぐるみを抱えたまま、ベルデの王宮へと戻ってきた。
流石に部屋に戻る迄の道のりで注目を浴びていたが、彼はそんなもの何処吹く風……アーサーの強靭すぎるメンタルが、少し羨ましくもある今日この頃だった。
黒い革のソファに腰掛けた俺は、隣に座ったアーサーから手のひら程の大きさの小箱を渡された。
「ふぉ……? なに、これ」
驚いた俺の口からおかしな声が出る。
「プレゼント。開けてみて」
ニコニコ顔のアーサーに「はやく」と促される。
なんだ、今日アーサーやたら機嫌いいな。
アーサーに肩を抱かれたまま、俺は綺麗に施されたラッピングを解き、蓋を開けた。
「なにこれ……すご、綺麗……!」
中から、アーサーの瞳と同じような宝石が付いたピアスが顔を覗かせた。
「いいだろ? ロアに付けてもらいたくて、特別に作ってもらったんだ」
「へ? そそそそなの!?」
それを摘んで顔の前に持ってくると、まじまじと見つめる。
少し大き目の宝石が置かれた台座のような部分には薔薇模様の細かな細工が施されており、職人の技術の高さが伺える。
だがしかし、ある事に気がついた俺は「は!」と声を上げた。
ピアスという存在も知っているし、周りに付けている人間も何人も見てきた。「ロアは付けないの?」と何度か聞かれたこともあるが、断固としてそれを拒否して来た。
何故って、怖いじゃん。
怖いじゃん! だって穴開けるんだよ!?
「あ、あのこれ……耳に穴開けて付けるやつですよね。俺、空いてないんですが……?」
嫌な予感がして、思わず顔が引き攣る俺にアーサーはここ最近で1番イイ顔を俺に向けている。
「知ってる。だから開けるんだよ、俺が」
気付けば、アーサーの手には細い針のようなものが持たれている。
俺は思わずソファの端まで後退り、そこに置かれていた、先程クマハルと名付けたぬいぐるみを抱き締めた。
「むりむりむりむり…いや、むりだって痛いじゃん絶対!!」
クマハルで隠した顔がどんどん青ざめていく。
そのフサフサの腕を握り、アーサーに向けてブンブンと振った。
「大丈夫だろ。乳首噛み潰されて悦ぶロアだぞ? 何を今更」
「ちょっ……ば! ほんと何言ってんの!」
いつの間にか俺のクマハルはアーサーの手によって没収され、その代わり腕の中には大きな身体が収まっている。
「つけて欲しい、と思ったんだが……そんなに嫌がるなら無理強いはしない。どこかに大事に飾っていてくれ」
「っぅ……んっ……」
耳元でそう囁かれ、ペロッと耳孔に舌を這わされると、反射的に甘い声が漏れる。
多分あれ、オーダーメイドだよな? 俺の為に作ってくれたんだよな……
先程の店で自分の事を想い、オーダーしてくれたアーサーの事を想像すると、きゅっと心臓が掴まれる。
「……たく、……ないで」
未だ俺の耳を舐め回しているアーサーが、そんな震える声を聞き顔を上げる。
「ん?」
「痛くしないで、ね。開けるの……」
眉を下げてそう懇願すると「当然」と言いながらキスを送った。
いやもう、ほんとアーサーに弱すぎるだろ俺。
いつもに増して、自分の将来が心配になった。
「ほんとに痛くなかった」
「だから言っただろ? とは言え一応傷口だから、暫くは付け外しせず風呂で綺麗にした後は消毒しような」
正面に座ったアーサーの服を握ったまま、ギュッと目を閉じていると、いつの間にか「終わったぞ」と言う言葉が掛けられ驚き目を開いた。
「はい」と渡された手鏡を覗き込んでみると、耳朶には先程の美しいピアスが輝いていた。
「ほ、ホントに空いてる……!」
感嘆の声を上げていると、横から抱き着いてきたアーサーも鏡を覗き込んでいた。
「ん、凄く似合ってる。綺麗だよ、ロア」
「えっ、あっ、うん。あの、アーサー……ありがとう、こんな素敵なもの……」
手鏡をテーブルの上に起き、アーサーの方に向き直し、ぎゅっと抱き着く。
そんな俺を抱き返しながら頭を撫でるアーサーが、改まった口調で「なぁ、ロア」と話し掛けてきた。
「う、うん。何?」
「……これを俺だと思って、片時も外さず付けていてくれ。ずっと俺はお前の傍にいて、お前の事を愛し続けているから」
「へ? あ、……あ、ぇっと……わかっ、た」
嬉しい言葉の筈なのに、何故だろう。心の中に、少しばかりの不安が渦巻いたのは。
もうすぐ俺の前から居なくなるみたいな……そんな台詞……いや、まさか。
『……レーファウか?』
何時ぞやの、寝惚けて呼び間違えたその名前を思い出し、密着したアーサーの身体を抱き締める腕に、少しばかり力を込めた。
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