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第31話

31. 「話を戻そうか、ルイス。俺はな、お前を糾弾し……このブランを頂きに来たんだよ」  甘いひと時は雪のように溶けて消え、魔王が再降臨致す。 「ふ、ふ、ふざけるな……いきなり押し入って来たかと思えば。こんなことして、ウチの親父が黙ってると思うなよ!!」  途端に息を吹き返したかのように耳につく声で喚き始めるルイスを、俺は蔑視した  出たよ、このカスの常套文句「うちの親父が」。これを聞く度に反吐が出る思いだった。  そもそも、ブランの国王は余命宣告される程の状態。実権握っているの、お前だろうが。  ゴミを見る目をルイスを見る俺の横で、アーサーは声を上げて笑った。 「レーファウ、例のものを見せてやれ」 「はっ」  キッチリと固めたオールバックの、キリッとした鋭い目つきの男は、アーサーよりは歳上だろうか。その「レーファウ」が、ルイスの眼前に1枚の紙を見せ付ける。 それを目で追うルイスの顔が、みるみるうちに青ざめていった。 「は、……なん、だ……これは」  予想通りの反応に気を良くしたアーサーの口元が弧を描く。 「筆跡に覚えがあるだろう? その、お前の親父……ブランの現国王が、国土、軍、民、その他一切をアズーロに譲渡し、今日その書状をもってブラン王国の解体を宣言する、降伏状だよ」 「っ……!? え……」  流石の俺も驚き、口をパクパクさせながらアーサーを見つめると、彼は「すまない、お前の故郷を……」と小さく呟いた。  だが直ぐに険しい視線を、ルイスへと向ける。 「嘘、だろう……」  流石のルイスも、力なくその場に崩れ落ちていた。 「既に我が軍によって、この王宮内は制圧されている。今頃、国王とその臣下は我が国に護送されているだろうよ。お前が、ローゼで遊んでいる間に、な」 「た、た……たしかにそれは親父の書いたものかもしれない。だ、だが、この場を……ブランを好きにする権限などお前には無いはずだ! たかが王子が好き勝手しやがって…アズーロの国王と話をさせろ!!」 諦めきれないと言った様子のルイスは、再び声を荒らげる。 そりゃそうか……今こいつは、その全てを失おうとしている。  にしても、みっともない。  仮に国を預かる者がこの醜態。ていうかお前も王子だろうがよ。  群衆も眉間に皺を寄せ『何、あれ…』とドン引きのご様子だ。 「親父に取り入ろうってか? はっ、やはり考えることが愚かだな。レーファウ、次だ」 「はっ」  レーファウが紙を1枚捲ると、新しい書状らしきものが奴の前に掲げられる。 「あぁ……せっかくだ。お前の為に読み上げてやろう。私、アズーロ国王、マクシミリアン・イアン・ヴェルメリオは、此度のブラン王国の一件に関して、その全ての権限を、アルトリウス・キール・ヴェルメリオ第1王子に一任する。……つまり、この件は全て|俺《・》|預《・》|か《・》|り《・》なんだよ」  それを述べるアーサーは……勝ち誇った王の顔をしていた。  暫く沈黙が場を制する。  それを打ち破ったのは、パンパンッと、俺の座る斜め後ろから聞こえた拍手だった。 「いやぁ、愉快。良いでは無いかアルトリウス。はるばるベルデから足を運んだ甲斐があったな」  それまで黙って……時折笑い声を洩らしながらその場を見学していたノクセスが声を上げると、俺を含め全員の視線がこちらを向く。 「折角だ、我が国からも一言良いかな」  腕を組み片手で顎を触りながら、それはそれは愉しそうな顔で、もうすっかり腑抜けになりへたり込んでしまったルイスへと、ノクセスはその翠色の瞳を向けた。 あぁ……この歪んだ笑い方、魔王はもう1人いたんだな。 「この度、我がベルデ王国とアズーロ王国は姉妹協定を結んでな。互いに支援し合う間柄となった。お前が抵抗し、このブランを渡さないと言うならば……ベルデ・アズーロ、両国を相手に戦争を引き起こすという事になる。などと私は考えるが、全能たるブランの王子様は……一体どのようにお考えになるのだろうなぁ」  最後の一言に、彼の人の悪さを感じざるを得なかった。 相変わらずルイスは、先程から黙ったまま、顔を思いきり横に向けている。  子供か。 「乗りかかった船だし、ついでにその戦争……僕も力貸しちゃうけどねぇ?」  この場の雰囲気に不相応な弾んだ声が、反対側から聞こえてくる。  そういえば……タチの悪い悪魔も居たな、このパーティー。  リアンはぴょんっと玉座から飛び降り、力なきルイスに大きな丸い宝石の付いた黄金に輝く杖を向けた。  その杖に、その場の全員の視線が釘付けとなる。  ……聞いた事がある。有名な話だ。  稀代の天才大魔術師は、黄金に輝く唯一無二の杖を愛用していると。また、その先に付いた大きな球体の宝石は、見る角度によって色が変わり、どんな技術を用いても決して複製する事が出来ない。  故にそれが|大《・》|魔《・》|術《・》|師《・》|の《・》|証《・》|明《・》なのだ、と。 「この面々ならば、ブランどころかノワール大陸全土を手中に治めることも可能だろうな。……さぁて、どうする? ルイスさんよ」  先程から俺の髪を梳いて遊ぶアーサーが、じとり、とルイスを見ると、他の2人も同じく視線を送る。  勝敗は、明白であった。  奴には反撃の弾など……もうひとつも残って居なかったのだ。  

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