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月夜の逢瀬 3
ぴたりと、熱い先端を押しつけられた。
ひくひく泣いているスリットへ。
(あっ……)
シェルの奥が震えた。
シェルの腰を抱きしめたまま、ネロがゆっくり腰を突き上げてくる。
熱くて、かたくて。息が止まりそうなほど太い何かが、スリットを押しひろげて入ってくる。スリットの奥の、蜜を吐いて待ちかまえている入り口に熱い圧迫が侵入してきたのを感じて、その痺れるように甘い強烈な刺激に耐えられなくて。シェルは尾びれをくねらせて、助けを求めてひらいた唇から、泡と一緒にはしたない喘ぎ声をもらした。
「やっ、ネロっ……あぁっ、だめっ……」
「きつっ……シェル、締めすぎ」
シェルをやさしく、でも逃がさないようにしっかり抱きしめて、ネロが大きな手のひらでなだめるように尾びれを撫でてくれる。
あたたかい手のひら。
ゆっくり撫でまわすその感触が、信じられないくらいゾクゾクする。先端を咥えこんでいるシェルの窪みがきゅうっと締まって、熱くて太いものをさらに奥へ引きずりこもうと絡みついていく。ネロにしがみついて尾びれを震わせて喘ぎながら、シェルは恐ろしかった。
(僕の、身体なのに)
シェルとは別の生きものになってしまったみたいだった。
ネロがやさしく触れてくれると、そのひとつひとつに歓んで、もっとと縋りついてしまう。
(変わるせいだ)
中途半端にしか変われなかったくせに。
シェルの身体が求めている。
そういうことをするための身体だから。
シェルはなにも知らないのに、ネロが導こうとする先をシェルの身体はわかっていて、はやくほしいと切なく震えて食らいついて、シェルを置き去りにして泳いでいく。
(ちがう)
僕じゃない。
こんなのちがう。
ネロ。
(ネロ、たすけて)
ネロにしがみついて必死に訴えようとするのに、シェルの身体はますます熱く疼いて、ネロを奥まで誘いこもうと腰をすりつけはじめた。
ネロはすこし驚きながら、でも嬉しそうだった。
シェルに何度もキスをして、シェルの腰を抱きよせて、ずぷりと、また先端を突き上げてくる。歓喜で震えるシェルの奥が甘ったるい蜜を吐き出して、その蜜に誘われるように、ネロの熱い先端がさらに奥をめざして押し入ってくる。
(うそ)
ちがう。
ちがうから。
ネロ。
(ネロっ……)
しがみついて震えているシェルの腰を掴んで押さえつけて、ぐいぐい自分の腰を突き上げてくるネロの動きが、ふいに止まった。
やさしく抱きしめられて、目元にそっとキスされたのを感じて、シェルは震えながら顔をあげた。
シェルを映しているネロの紅い目は心配そうで、何かを必死に耐えているみたいで、苦しそうで。それでもシェルを安心させるため、やわらかく微笑んでくれていた。
もう一度、目元にやさしくキスをされて。
自分が泣いているせいだと気づいた。
「シェル、深呼吸して」
シェルをやさしく抱きしめたまま、ネロの温かい手のひらが背中をポンポンと叩いてくれる。
昔の記憶がよみがえった。
ネロに岩陰から引っぱりだされて、はじめて一緒に泳いだ日。うずくまって泣きやまないシェルに、ネロは同じことをしてくれた。
不思議なくらい、安心したのを覚えている。
ネロだけだった。
泣きたくもないのに泣いてしまうシェルを、泣くだけで何もできないシェルを、バカにしたり迷惑がったりせずに、ネロだけがそのまま受けとめてくれた。
シェルが泣き出すたびに、ネロはシェルを抱きしめて、やさしく背中をたたいてくれた。
(この手のひらが、好き)
苦しくても、怖くても。
ネロの手のひらを感じて、ネロの体温に包まれていれば、シェルは耐えられる。
深く水を吸いこんだらネロの匂いがして、こわばっていた身体から力が抜けていくのを感じた。
「……悪かった、シェル。俺が、急ぎすぎた」
シェルを胸に抱き寄せて、シェルの髪に顔をうずめて、ネロがまたぎゅっとシェルを抱きしめてくれる。
その胸にしがみついて抱きしめ返して、シェルはちいさく首をふった。ネロがすこし安心したように笑った。
「落ち着いた?」
「うん」
「シェルはさ、イヤだったか? その……俺と、するの」
ネロがどこか傷ついたように笑ったから。
ちがう、と首をふって抱きついて、じっと覗きこんでくる紅い目をシェルも見つめ返した。
(ちがう)
僕はネロがいい。
ネロじゃなきゃいやだ。
(僕も、ネロと……したい)
僕はなんて、弱くて臆病なんだろう。
怖いだなんて。
でも、自分の身体だけがネロと繋がろうとしているみたいで、変わった自分についていけない自分は、脱皮殻のように脱ぎ捨てられて置き去りにされて、どこにも居なくなってしまうみたいで。恐ろしかった。
「びっくりしたんだな」
「そうかも」
「心がまだ追いついてない」
「うん」
「恥ずかしい?」
「……うん」
「積極的なシェルも、俺は好きだよ」
すげえヤらしい。
そう、ネロが耳元で笑って、シェルを抱きしめたまま少しだけ腰をゆさぶった。
まだ咥えこんだままだった先端がずぷりと入ってきて、喘ぎ声をあげてネロの胸にしがみついたシェルの耳にキスをして、ネロが低くささやいた。
「なぁ、シェル。シェルはすこし勘違いしてる」
「なにを」
「これは怖いことじゃねえし、恥ずかしがることでもねえよ」
――気持ちいいんだ。
低いささやきが、密着した胸を震わせて。
スリットの奥が、甘く疼いた。
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