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月夜の逢瀬 4
「感じろ、シェル」
そう、ネロに抱きしめられて。
シェルはネロの胸に顔をうずめて、力を抜こうとゆっくり水を吐いた。
拒むのをやめて、こわばりそうになる心をほぐして、身体が求めるままにネロを受け入れてみようとした。
たちまち、すべてが変わっていった。
入ってこようとするネロの昂ぶりを、なぜ身体がこんなに歓んで迎えようとしているのか。シェルにもようやくわかった。
嬉しくて。
しあわせで。
歓喜して震える内側がネロを呑みこもうと波打つのも。
奥からあふれだす蜜がネロの先端に絡みついて、ネロが突き上げてくる信じられないくらいの質量を待ちわびていたように締めつけるのも。
ネロの先端が内側を撫でるようにこすって、さざ波にゆれる海草のように、甘い刺激でシェルの身体を震わせるのも。
ただ嬉しくて、心地よくて。
気づいたらネロに抱きついて、自分から腰を押しつけて、ネロの温かくてかたい、くらくらするほどオスの匂いがする胸に夢中で噛みつていた。
ネロの手がシェルのあごをそっとつかんで、上を向かせる。
ゆっくり唇が重なってきて、その口づけにこたえようと唇をひらいたら、また深く、先端が入りこんできた。
さっきより、ずっと奥深くまで。
そのまま奥をめざして突き進んでくる。
「んっ……んんっ……はぁっ……あぁんっ……」
ネロがすこし強く突き上げた腰がシェルの腰にぴたりと口づけするようにぶつかって、熱い先端がシェルの奥の壁をこすった。甘い刺激にシェルが吐き出した喘ぎ声を、ネロの唇がそっと飲みこんだ。
「シェル、感じるか? 俺の」
「あぁっ……はぁっ……うんっ……あついっ……」
信じられないくらい奥がいっぱいで、苦しくて、熱くて。
それがすべてネロなのだと思ったら、嬉しくて涙があふれてきて、あわててネロの胸に顔をおしつけた。
(つながってる)
ネロと。
こんなに深く。
独りきりになってから、ずっと、シェルは足りないまままだった。
大切な一部を引きちぎられて、奪い取られてしまったみたいに。
満たされてる。
やっと。
(やっぱり、ネロだったんだ)
ずっと、欠けていたもの。
しあわせだった。
もう、離れたくない。
ここまま、永遠に繋がっていたい。
「はぁっ、ネロッ……」
「なに?」
真っ黒な髪を波にゆらして、紅く光るネロの目がやさしく覗きこんでくる。
「……好き」
渡したくない。
だれにも。
僕だけのものにしたい。
どくんと、繋がったままのネロの中心がシェルのなかで脈打って、内側を圧迫する質量が大きくなった。
嬉しそうに微笑んで、シェルをぎゅっと抱きしめて、ネロの唇がシェルの額にそっとふれた。
「俺もだよ。すげぇ、好き」
(ウソつき)
やさしいリップサービス。
わかってる。
ネロが僕を愛してくれるのは、今夜だけ。
あたたかい胸に顔をうずめて、内側から感じるネロの熱と圧迫感にぽうっと酔って、シェルがうっとり目を閉じようとしたら。
突然、ネロが水を蹴った。
尾びれの激しい動きが、繋がったままの腰を突き上げてくる。
先端で奥をこすられて、シェルが甘い悲鳴をあげたら、またネロの尾びれがゆれて、何度も先端で奥を突かれて、全身がぞくぞくと震えた。
「やっ、んんっ……ネロっ、それっ……」
「ちゃんと掴まってろよ」
また尾びれが揺れて、ネロの肩にしがみついて、シェルは凍りついた。
ネロは泳ぎだしていた。
抱きかかえたシェルと、繋がったまま。
「やだっ、ネロ、抜いてっ! 戻って!」
「ヤダ、って言ったら?」
「こんなの、だれかに見られたらっ」
真っ赤になってしがみついているシェルにネロが笑って、耳を噛んだ。
「いいじゃん。見せつけてやろうぜ。この海いっぱいに」
「よくないよっ」
シェルが睨みつけようとしたら、ネロが尾びれを強く蹴った。
つながった部分が奥深くまで入ってきて、背びれを震わせて喘いだシェルの額に、ネロがやさしくキスをした。
「誰も気にしてねぇよ。みんな自分のつがいしか見えてねぇって。ほら」
ネロの視線の先を見まわすと、ネロの言うとおり、他の人魚たちはサンゴの根元や岩陰で砂を舞いあげて夢中で絡みあっていた。あんなに我を忘れていたら、きっと、サメが襲ってきたって気づかない。
「いやなら、抜くけど?」
ネロがやさしくシェルの背びれを撫でた。
紅い目でじっと見つめて、するどい歯をのぞかせた口にちょっと意地悪な笑みを浮かべている。
ずる……と奥を圧迫する熱が引きぬかれていくのを感じて、シェルは思わずネロにしがみついた。追いすがるように腰を押しつけて。
「……抜くのは、ダメ」
ネロが嬉しそうに笑ってシェルを抱きしめて、尾びれを蹴った。
また深く突き上げられて、口から銀色の泡を吐き出して、ネロの胸にしがみついた。
(どこへ行く気なんだろう、ネロは)
黒いしなやかな尾びれで、ネロがゆったり水を蹴る。
砂浜に打ちよせる波のように。
引いては返す、規則的な律動。
そのたびに先端が奥をこすって、甘い痺れがシェルの身体にさざ波をたてる。
耳元で、ネロがちいさく笑った。
「それ、すげえヤらしい」
「え?」
「俺の尾びれにあわせて、腰すりつけてくるやつ」
「しっ、してないよっ、そんなのっ!」
びっくりして、ネロをにらんだ。
なのに、ネロがわざと大きく波を蹴ったとたん、シェルの尾びれもすがりつくように動いていて、気づいた瞬間、耳が熱くなった。
真っ赤になってネロの胸に顔をうずめたシェルの耳元で、ネロが笑った。
「気持ちいいんだろ?」
「………………うん」
ネロとぴったり抱きあって。
黒い尾びれがおこす、ゆるやかな甘い痺れに身をまかせて。
ふと、おかしなことにシェルは気づいた。
少しづつ、近づいてきている。
銀色にかがやく、明るい海面が。
「ネロ?」
シェルが顔をあげると、ネロの青灰色の顔は、まっすぐ上を見あげていた。
きらきらと月明りが溶ける、明るい波間を。
顔をしかめて、睨みつけるように目を細めながら。激痛にゆがんだ表情で、それでもまっすぐに顔をあげて。
(まさか、海面へ行くつもり?)
「ネロ、戻ろう。はやく」
ネロがちいさく首をふった。
「平気だって。気にすんな」
「平気じゃないよ。どこか、もっと暗い場所に」
「まぶしいな」
ネロが笑って、シェルのまぶたに唇をおとした。
「めちゃくちゃ、まぶしい。けど俺は、明るい光のなかにいるシェルが好きなんだ。すげぇまぶしくて、すげぇきれい。……それに」
ネロがわざとらしく尾びれをゆらした。
突き上げられて「あっ」と泡を吐いたシェルに唇を重ねて、ネロが笑った。
「シェルとこうしてると、痛くねえんだよ。……何でだろうな?」
ぎゅっと抱きしめられて。
耳をやさしく噛まれて。
尾びれの蹴りでゆすられて、甘い痺れにたゆたって。
シェルはふと、思い当たった。
「わかった。僕が食べてる海藻のおかげかも。覚えてる、ネロ? 僕の好物の。茎が紫色で、齧るとすごく甘いの。あれには頭痛を和らげる薬効が……」
「シェル」
「ん?」
「台ナシだよ、お前」
ネロがあきれた顔でシェルをにらんで、小さく笑って泡を吐いた。
煌々と明るい満月の下。
ネロに抱きかかえられたまま、シェルは波間から顔を出した。
黒髪からしずくをしたたらせ、しなやかな上半身をそらしたネロの輪郭を、月の光が浮かびあがらせる。
夢のようにきれいで雄々しいその姿に、シェルの奥がきゅっと疼いた。
ネロの強い腕で、骨がきしむほど抱きしめられて。
シェルもネロの肩にしがみついて、薄紅まじりの白くきらめく尾びれをからめて。
食らいつくように唇を重ねあって、これ以上ないくらい、深く繋がった。
限界まで引きぬかれて、奥深くまで貫かれる。
息ができないほど喘ぎながら、シェルも尾びれをくねらせて、夢中でネロを呑みこんだ。
何度も、何度も。
激しくゆさぶられて、突き上げられて。
ひときわ深くネロが突き上げた昂ぶりに、夜空へしぶきを散らしてのけぞって、シェルは果てた。
ぐったりネロの胸に倒れこんだシェルの最奥で、ネロがはなった狂おしい熱が、シェルをいっぱいに満たしていった。
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