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三つ

  「はぁ?なんだそれ」 「ま、一限サボったからって俺は大丈夫だって話だよ」 「うわっ、ドヤ顔すんなよ。腹立つわー」 確かに悠斗は頭良いし、一限サボっただけじゃなんともないだろうが。それにしても腹立つものは腹立つのが俺だ。 「てー訳で、秀生」 「なんだよ」 「俺さー、行きたい場所あんだけど」 「……嫌な予感しかしねぇ」 「じゃ、早速レッツゴーっ」 「yesなんて言ってないし…て、ちょっ、ひっぱんな!分かったから!」 今日はやけに強引な悠斗に連れられて、俺達は大学を後にした。 「…で?行きたい場所ってココ?」 「そーなんだよ。いやー、秀生が車持ってて良かった良かった」 「お前…俺をアシにしたな?」 「細かい事は気にすんなって!じゃあ、はい。秀生のマイクな」 「…ったく、調子の良い奴め」 どうやら悠斗が来たかったのはカラオケだったらしく、とてつもなくワクワクしている姿を見てしまっては怒るに怒れない俺は渋々と手渡されたマイクを受け取った。 と言いつつ俺も悠斗を独占できる喜びがあるから人の事は言えないんだが。 「つーかコレ、フリーにしてたよなお前?」 「うん?そうだな」 「……今日は大学サボる気だったんだな?ちゃっかり割引券まで持ってやがったし」 「バレた?当たりー♪」 「バレたじゃねぇわ。あと可愛くねえから止めろ」 エヘヘと笑う悠斗に俺はそう言って平常心を保つ。 (…やべー。超可愛く見えるっ。耐えろ俺) 本当に理性との戦いだと思う。 カラオケって密室だし、二人っきりだし、悠斗可愛いし、楽しそうにしてる悠斗マジやばいし、本当もう生殺しだと俺は思うんだが。 そもそもなんで俺なんだという疑問があって、まさかと勘違いしてしまう俺がいる。 でもきっと、悠斗の事だからなんも考えてないんだろうな。 「…なぁ、一つ聞いて良いか?」 「んー?」 「なんで俺?さっきのダチと来れば良かったじゃん」 話し掛ける俺に対して、マイク調整をしている悠斗は生返事をしてくる。 俺の予想だとこの後の台詞的に「それがさー、皆無理っつうから」の一言なんだろうなと確信にも近いモノを考えていた。 なのに…返ってきた答えはまるで違っていた。 向けていた背中をそのままに、顔だけを向けてくる悠斗は少しだけ膨れていて…拗ねたような顔をしていた。 「…秀生は、オレとカラオケは嫌?」 「えっ…いや、そんな事言ってねぇじゃん」 「ならいいじゃん。……オレが秀生と来たかったんだから」 「……っ!」 もう駄目だと思った。 理性が…砕け散っていく。 今までずっと押さえていた俺の気持ちは更に強くなっていて、もう隠せない程にそれは溢れてくる。 多分、今から嫌われるような事をする。 もしもコレで嫌われたなら…軽蔑されたら、俺はもう悠斗の側に居られない。 「……秀生?」 それでも構わないと思うくらい、今の俺は理性がぶっ飛んでいた。

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