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第3話 天啓を司る大天使ガブリエルと運命をなでるようなエロ本?
「ルシフェル」
「!?」
同人即売会の雄っぱいピンク祭りから逃げていたら、ガブリエルに声を掛けられた。
おれたちはさっと移動して、通路じゃない場所で立ち話をすることに。
ガブリエルはリュックにキャリーと荷物をたくさん持っている。おれも似たようなもんだけど。
彼は俺より小柄なのに潰れないか心配な重量だ。
と、とにかく返事をしないと!
「ガブリエル……な、なにか」
「それ、ミカエル?」
「!!!」
ど、どうしよう。
さっき買ったミカエルの同人誌を手にしていることに気付かれた……!
なんて言い逃れをすればいいんだ!?
そうだ、話を逸らそうっ!
「ガブリエル、それ同人誌か?」
おれの言葉に目を輝かせたガブリエルは胸を張って、語り出す。
「ふふん。わたくしが乙女ゲームになっていまして、女性主人公との少女漫画という同人誌です。これ、すっごく可愛いんですよ! ぎゅーってする描写がたくさんあるんです!」
少女漫画だと!? 眩しい。これが夢男子と腐男子の決定的な違い! 少女漫画だと、なんか言うの恥ずかしくないよな! BLはエロ本? だと思われそう! で、言えない!
バレていないはず! エロ本だとは思われていないはず!
「それで、そのミカエルは一体?」
「お、おれは……ミカエルの、その。顔が見たくて」
「ん? ミカエルに声を掛けられないのですか? ど、どうして?」
え、困惑されている!? 確かに顔が見たいなら、声を掛ければいいのはわかる。でも!
「おれではミカエルを笑わせられないから」
「えっと、それって……」
っあ!? 変だと思われてる!?
いや、そうか、当たり前だろ! こ、これではなんかあれな感じで、意味不明だ!
「ルシフェル、このあとお時間はありますか?」
「……? ああ、まあべつにいいけど」
目的の同人誌を買い終え、ガブリエルと待ち合わせているファミレスへ向かう。
足取りは重たい。だって、ミカエルに黙っていて欲しければなんか面白いことしろとかだと困る。
ラファエルじゃあるまいし、大丈夫だと思うが、しかし。
ガブリエルもけっこう面白いこと好きなんだよ。
いや天使なんて皆そんなもんだが。
ガブリエルはセラフィム様の長い金の髪を三つ編みにしたり、セラフィム様の行く手にエロ本置いたり、しょーもないいたずらが好きだ。
セラフィム様は198㎝の長身だし、色素の薄い金色の瞳は睨まれるとちょっと怖いんだけどな。
もう、ガブリエルがセラフィム様にいたずらするのって当たり前だよねって空気ですらあるぞ。
けど、セラフィム様は律儀にガブリエルをお仕置き部屋へ突っ込んでいたな。
ガブリエルはなんで反省しないんだよ。苦痛を味わう部屋のはずなのに――。
それはともかく。
おれが次の標的にならない保証なんてないっ!
ん? そういえば。
なんだろう、別れ際のガブリエルがきらきら輝いていたような。
神聖な後光が……。
【天啓を司る大天使ガブリエル】――。
――ま、まさか、天啓!?
しかし、ファミレスはいつ来ても綺麗だな。清潔で整っている。
少し前まで、人間は石や木の椅子に腰かけていたのに。
このファミレスソファーというのは木材で出来ているのか?
「あ、ガブリエル」
何も注文していないテーブル席に、ガブリエルが座っていたので声を掛けたが。
たぶん。
「何注文する? おれが出すよ」
「いいのですか?」
ぱああっと嬉しそうに笑うガブリエル。
ガブリエルは浪費家なので、大天使としての給料は毎月使い切って貯金がない。
可愛い感じで人懐っこい一面もある彼は嬉しそうにすれば毎回奢ってもらえるかも! みたいなところがある。
天使として他意はないけど、奢っておこうかなと思う。
かわいそうだし……。
「いいでしょう。背に腹は代えられません」
祈るポーズでおれの気持ちを当てたらしい彼はいちごパフェを注文した。
おれも抹茶パフェを頼んで、落ち着いたところで彼を窺う。
「なにか、わたくしに相談があるのではないですか?」
「おれはなにも。ガブリエルから誘ったんじゃ?」
「ミカエル」
おれは静止して、そのままゆっくり彼の顔を見た。
やはり弱みを握られた!?
ま、まさか。ミカエルに告げ口を……?
「に。恋、してたりして」
にんまり顔のガブリエルにおれは冷や汗をかく。
彼はテーブルに両肘をついて頬に両手をあてている。
その笑顔は天使らしい無邪気さに溢れていた。
「べ、べつに、ミカエルと口づけがしたいとか思ってないし」
「へー!」
そこに、パフェが運ばれてきた。
パフェをスプーンでつつきながら、ガブリエルは少し真剣な顔をする。
「絶対に口づけはしないように」
「わかっている」
「そんな堕天の仕方をすれば、どうなるかわかりませんよ」
「わかってるって」
……ガブリエルはおれに忠告がしたかったってことか。
「大天使ミカエルが堕天したら、歴史がひっくり返るようなことですから」
「……」
それは、わかる。
「おれもそんなこと望んでないよ」
ガブリエルは少し悲しげにしたあと、美味しそうにパフェを食べた。
甘い味がする自分の唇。
――絶対にかさならない想いが叶ったら、甘いの……だろうか?
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