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水族館デート⑤
「これからどうする?」
伊織が皆を見渡して意見を求める。その言葉に「待ってました」と言わんばかりに、翠が瞳を輝かせた。
「俺、イルカショーが見たいです。千颯は?」
「あ、僕もイルカを見てみたい」
嬉しそうな翠の言葉に、千颯が賛同する。二人で顔を見合わせて笑う光景はとても微笑ましい。
「いいね、イルカショー。碧音もイルカショーでいい?」
「うん。でもペンギンショーやアシカショーもあるんだね」
「本当だ。どうせなら全部見ようか?」
「うん」
お客さんで溢れる水族館の中、チケットを購入することができた俺たちは、ようやく広場へと辿り着くことができたのだった。
「わぁ、海だぁ」
広場に着いた瞬間、俺たちの目の前に海が広がる。その海は遊泳禁止になっている場所で、波もかなり高い。写真で見るような透き通った海ではないけれど、普段海を見ることなんてない俺たちはとても感動してしまった。
「海って大きいな……」
俺が口を開けたまま海に見惚れていると、そんな俺を見た伊織がクスクスと笑っている。
「碧音、そんなに大きな口を開けてたら虫が飛び込んでくるよ?」
「え、あ、うわっ、恥ずっ!」
俺は慌てて口を両手で塞ぐ。そんなやり取りも楽しくて俺は嬉しくなってしまった。すごく、デートっぽい。
ゴールデンウィーク中の水族館は想像以上に混雑していたけれど、「碧音ついてきてる?」と俺を気遣うように時々後ろを振り向いてくれる伊織の優しさがくすぐったくて。混雑もいいもんだな、なんて思ってしまった。
「千颯は暑くない? 体調が悪くなったら遠慮なく言ってね」
「い、伊織先輩、ありがとうございます」
「ほら、こっちのほうが日陰だからこっちにおいで」
「で、でも……」
「いいからおいで。熱中症になっちゃうよ」
「はい。ありがとうございます」
今度は千颯の元に駆け寄り、千颯の手を引き日陰へと誘導する伊織。
「何か飲む? あっちに自動販売機もあるよ」
「あ、あの自動販売機に売ってるペットボトル、イルカのイラストが描いてあります。可愛いですね」
「本当だ。可愛い。水族館限定みたいだね」
伊織と千颯は顔を見合わせて微笑み合っている。伊織は優しいけれど、その優しさが自分以外に向けられることが面白くない。
それに、わざわざ手を引くことなんてないだろうに……。俺は唇を尖らせながら、そんな二人のやり取りを見つめていた。
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