22 / 68

失恋と惹かれる心③

   それからも、俺が翠を待って一緒に下校する、という不思議な習慣は続いていた。  俺は三年だから、もうとっくに部活動を引退している時期だった。  しかし、俺は未だに週一しかないボランティア部の活動に顔を出している。  翠を待つ間は、時間がどうしても余る。週に一度しかない活動だとしても、何もしない時間がただあるよりはと、活動を続けていた。  そんなことはせずとも、本当ならすぐにでも帰ってもいいはずなのに、なぜかそれはできなかった。  俺が翠を必要としているように、翠も俺を必要としているかもしれない。そう考えると、俺だって翠の傍にいてやりたいと思ってしまうのだ。  残り物同士仲良くしましょう、という翠の言葉が未だに頭を離れない。きっと、翠だって失恋したばかりだから辛いはずだ。笑顔の奥に隠された悲しみが、俺には見えるような気がする。  少し前、一緒に駅に向かっているときに翠に質問を投げかけたことがある。それは、俺がずっと心の中に抱いていた疑問だったのだけれど、いくら考えても答えなんて出なくて――ずっと苦しかったのだ。 「ねぇ、翠。もしもだよ、伊織と千颯が付き合う前に、俺たちが二人に告白してれば、もしかしたらうまくいってたのかな?」  こんなことは所詮「たられば論」であって、いくら考えても真実に辿り着くことなんてない。でも俺はどうしても自分の納得いく答えがほしかったのだ。  突然そんな問い掛けをされた翠が一瞬目を見開いて、それからいつもみたいに笑った。 「別に今からでも遅くないです。碧音さんが本当に伊織さんのことを好きならば、想いを伝えればいいと思います」 「で、でもそれって横取りじゃ……」 「確かにそうなりますね。でもそれだけ伊織さんのことが好きってことでしょう? 好きって想いに、ブレーキをかけ続けることって本当に苦しいですよね。だって、こんなにも好きなんだもん」  そう話す翠はなんだか辛そうで、きっと翠も自分と同じことを考えて葛藤していたのだろうと悟る。  それでも、絶対に俺たちには横取りなんてことを、できるはずがない。そんな勇気があったら、はじめから、もっと早くに想いを伝えることができていたはずだ。 「翠も辛いね」 「ふふっ。碧音さんだって」  こんな時に顔を見合わせて苦笑いできる相手がいることに、俺は幸せを感じていた。  

ともだちにシェアしよう!