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失恋と惹かれる心④
雨が降っている日の放課後。朝は雨が降っていなかったから、俺は油断をして傘を持たずに登校してしまった。それでも天気予報が的中してしまい、午後からしとしとと雨が降り出したのだった。
「あぁ、ヤバイ……」
生憎折り畳みの傘を持ち歩いていない俺は、真っ暗な空を見上げて溜息をつく。もうすぐ、ジメジメとした梅雨の時期がやってくるのかもしれない。梅雨は湿度が高いし、蒸し暑いから大嫌いだ。
俺は重たい足取りで体育館へと向かう。部活をしている翠を見ればきっと元気が出る。そんなことを考えながら――。
「碧音さん、お待たせしました。帰りましょう」
「うん」
俺に笑顔で近付いてくる翠。
「お疲れ、翠! また明日」
「おう! お疲れ」
翠の肩を叩き体育館を後にしていく部員たちに、翠は笑顔で手を振る。
そんな部員たちに「いつから三年と仲良くなったんだ?」と不思議そうな目で見られても、翠は全然気にする様子はない。
翠は強い。そして真っ直ぐだ。まるで夏に向かって咲く準備をしている向日葵のように――。俺には翠が眩しくて仕方がなかった。
「まだ雨降ってるんですね」
「うん。翠、今日は駅まで送ってくれなくても大丈夫だよ。俺、傘を持ってないし。駅まで走って帰るから」
「そんなの駄目です! 風邪ひいたらどうするんですか?」
「大丈夫だって!」
「駄目です、俺の傘に入ってください。男二人でも、くっつけば大丈夫だから」
そう言いながら俺の腕を引き寄せる。開かれた翠の傘の下に俺は引きずり込まれてしまった。
これは世間一般に言う相合傘では……。俺の頭がパニックを起こす。相合傘って男女でするからいいのではないだろうか? そもそも、今の時代は相合傘なんて言わないのだろうか? そんな疑問がグルグルと頭の中を駆け巡る。
「でも、こんなところを誰かに見られたらどうするの?」
「そんなの気になりません。なにか言いたい奴には言わせておけばいいんですよ。それより、俺は碧音さんが風邪をひくことのほうが嫌ですから」
俺が傘の下からそっと抜け出そうとすると、再び傘の下へと引きずり込まれてしまう。これは観念するしかない……と俺は覚悟を決めて、翠に体を寄せたのだった。
駅に向かう途中、雨はどんどん強くなっていく。翠が色々と話をしてくれるんだけど、雨が傘に当たる音で聞き取ることが難しい。それでも翠の話は楽しいから、俺は必死に耳をそばだてた。
まだ時々、胸が張り裂けそうに痛むことがあるけれど、翠の存在が今の俺を支えてくれている。自分は独りぼっちじゃないんだって思うだけで、俺の心は奮い立つ。今にも折れてしまいそうな心を、なんとか支えながら生きていた。
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