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第四話 ジンベイザメの夢①

 毎日雨が降り続くジメジメとした季節がやってきた。湿気からくる気持ち悪さで不快指数はマックス。校庭に咲き乱れる紫陽花が、唯一心のよりどころのように感じられる。  あまりにも蒸し暑くて、ワイシャツの第二ボタンまで開けて下敷きで扇いでいたら、担任の先生に「だらしない」と叱られてしまった。渋々ワイシャツのボタンを閉めて机に突っ伏す。  こんな時期に二年生は修学旅行へと出掛けるのだ。  俺たちの学年はアンケートの結果で北海道に行ったけれど、どうやら今年は沖縄に行くらしい。 「いいなぁ。俺も沖縄に行きたかった」  沖縄に行くことができる翠たちが羨ましい。    修学旅行の前日。いつものように俺を駅まで送っていってくれた翠が、ポツリと何かを呟く。その声はとても小さくて、傘に当たる雨音で危うく聞き逃してしまうところだった。 「俺、三日も学校に来ないけど大丈夫ですか?」 「は?」 「だって、俺がいないと碧音さん、寂しいでしょう?」  真剣な顔で俺を見つめる翠。茶化すとかじゃなくて、本気で俺のことを心配していることが伝わってきた。 「俺、マメにメールしますから」 「あ、ありがとう、翠。でも俺は大丈夫だよ」 「大丈夫なんかじゃないでしょう? 今日だって目の下に隈がありますもん」  そう言うと、俺の目の下を人差し指でそっと撫でる。自分でも気が付かないうちに隈ができていたようだ。翠に言われなければ気が付かなかった。  最近俺は、夜眠ることができずにいる。ベッドに入ると伊織と千颯のことが頭を過り、胸が苦しくなってきてしまうのだ。そんなことをしているうちに、朝を迎えてしまう。  こんな隈、親だって気が付かなかったのに、翠は気が付くんだ……。俺は翠の心遣いが嬉しかった。 「あ、俺、お土産買ってきます。何がいいですか?」 「そんな悪いよ。お金だって使わなきゃだし、帰りの荷物にもなるよ」 「そんなこと気にしないでください。俺が好きで買ってくるんだから」 「で、でも……」  あまりにも必死になる翠を見ていると、断ることすら申し訳なく感じてくる。  お土産、お土産かぁ。  俺は色々と考えを巡らせる。大体沖縄に行ったことのない俺は、沖縄のお土産と言われてもピンとこないのだ。 「あ、そうだ。ジンベイザメ……」 「ジンベイザメ?」 「うん。ジンベイザメのキーホルダーがあったら買ってきて? このリュックサックにつけたいから」  俺は翠に背中を向けて、軽くリュックサックを揺らして見せる。今リュックサックには何もつけていないから、ジンベイザメのキーホルダーをつけたら、きっと可愛いだろうなって思った。キーホルダーならそんなに高価ではないだろうし、荷物にもならないだろう。 「わかりました。ジンベイザメですね」 「うん。ありがとう」  俺が笑って見せると、翠も嬉しそうな顔をする。

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