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ジンベイザメの夢④
その後も翠からのメールは続く。きっと翠が彼氏になったら不安を感じる暇さえないかもしれない……そんなことを考えてしまう。どうやら翠は意外とマメな性格のようだ。
「わぁ、すごい……」
放課後、翠から送られてきた写真に俺は思わず溜息を吐く。今まで送ってきてくれた写真も勿論素敵だったし、沖縄に行ったことのない俺にしてみたら、その光景は感動の連続だった。
それは、自分が沖縄にいるような気分にさえなるほどで。きっと、俺が寂しくないようにと、翠が気を遣ってくれているのだろう。
そして今、翠から送られてきたのは、真っ青な海の写真だった。まるで真っ青なビー玉のように透き通った海は、遥か彼方まで続いている。真っ白な砂浜は、日差しを受けてキラキラと輝いて見えた。
海の上には雲一つない、青い空。そのあまりにも綺麗な景色に、俺の胸は熱くなった。
『めちゃくちゃ海が綺麗!』
海を目の前に、無邪気にはしゃぐ翠の姿が目に浮かぶようだ。
髪をサラサラと揺らす潮風に、決して止むことのない波音。深く息を吸って海の香りを胸いっぱいに吸い込む振りをしてみた。目を閉じると、まるで自分が沖縄にいるみたいだ。
『今度来るときは、碧音さんと一緒に来たいな』
翠から送られてきたメールに、心臓がトクンと飛び跳ねる。一体どこまで本気なのだろうか? これが失恋したばかりの俺を慰めるためのリップサービスだとしたら、本当に質が悪い。
うっかり『俺も翠と一緒に沖縄に行ってみたい』なんて返信しそうになってしまうではないか。
「危なかった……」
俺は深呼吸を繰り返す。うっかり翠のペースに呑み込まれるところだった。今の翠は、きっと沖縄の雰囲気に呑まれて浮かれているだけ……。だから、こんな言葉に喜んではいけない。そう自分に言い聞かせる。
それでも、俺は自然と上がっていく口角を我慢することなんて、できそうになかった。
それからも時々届く翠からのメールが、いつしか俺は楽しみになってしまった。スマホを見つめては、まだかな……なんて待ち遠しく思う自分がいる。
今どこで、何をしているんだろう? 思いを巡らせては、色々と考え事をしてしまう。こんなことならしおりを見せてもらっておけばよかった。翠が笑っていたらいいなと思う。
翠が沖縄のホテルに着いた頃、俺は部活が終わった時間だった。ようやくホテルに到着したようだが、沖縄で二泊三日はやはり弾丸旅行のようで、今日は有名な観光スポットをいくつか訪れたようだ。
翠は見た目によらず真面目な性格らしく、行った場所それぞれの歴史や文化にきちんと向き合い、その都度大きな感銘を受けていた。写真と共に送られてくる短い感想に、俺は感動してしまう。
「翠って、本当にいい子なんだな」
改めてそう思う。
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