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ジンベイザメの夢⑤
今日は週に一回のボランティア部の活動日だったにもかかわらず、出席したのは俺を含めて数人だけ。必ずどこかに入部しなければならないという校則から、仕方なくボランティア部に入部する生徒は多い。週一回の活動だなんて楽だと、みんな思うのだろう。
来週実施予定になっている学校の周辺のごみ拾いだって、きっと参加する生徒は少ないだろう。そんな話を翠にしたら「え? 俺行きます!」って目を輝かせていたのを思い出した。
そんなことを思うと、イライラしていた気持ちが静まっていくのを感じる。何にでも一生懸命に取り組む翠。
伊織が涼しげな音をたてて流れる清流だとしたら、翠は勢いよく流れる流しそうめんみたいだ。「ヒャッホーイ!」と騒ぎながら、竹筒の中を滑っていく姿が想像できてしまい、俺はつい吹き出してしまった。
「翠、もうすぐ夕飯かな? 夕飯はバーベキューだって言ってたっけ」
部活で使った資料を片付けながらスマホを眺めていると、スマホがメールの着信を知らせる。『やっと部屋に着いたよー!』。そんなメッセージと共に、恐らく部屋から撮られた写真が送られてきた。
真っ赤な夕日に照らされた海は、また昼間と違った顔を見せる。お願い、まだ沈まないで……。そう言いたくなるような、少しだけ寂しい風景。沖縄の海は、夕方も綺麗なんだな。
今日一日だけで翠からはたくさんの写真が送られてきた。普段友達からメールなんてあまり来ない俺のスマホは、きっと驚いていることだろう。だって、俺自身もびっくりしているくらいだから。
まるで、俺まで修学旅行に行っている気分だった。
いつもなら、今日も部員が集まらなかった……なんて憂鬱になっていたけれど、今日はそんなことは全く感じない。
だって、俺の心は今、翠と一緒に沖縄にいるのだから。
「翠、にふぇーでーびる」
この言葉は修学旅行に行く前の翠に教えてもらった沖縄語。「にふぇーでーびる」は「ありがとう」という意味らしい。
翠がこんな風にたくさんの写真を送ってくれなかったら、俺は今頃失恋を引き摺っていた気持ちが膨れ上がって、翠がいないという現実に泣く日々を過ごしてしまっていたかもしれない。それどころか、千颯がいないうちに伊織を取り戻そうと躍起になってしまったり……。
でも今の俺の心は、沖縄の空のように晴れ渡っている。
翠はその日、消灯時間になるまで、メールをくれたのだった。
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