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夏休みの宿題②

 周りからは蝉の大合唱が聞こえてきて、少し歩くだけで汗が噴き出してくる。梅雨が終わりを迎えて、夏本番。一学期も終わって、高校生最後の夏はすぐ目の前だ。 「はい、碧音さん。アイス半分あげます」 「え? いいの? ありがとう」  駅に向かう途中のコンビニで買ったアイスをポキッと割って、翠が半分くれる。受け取ったアイスは冷たくて気持ちがいい。こんな風にアイスを半分こなんて、くすぐったくなってしまう。  でも、翠が本当にアイスを半分あげたい相手って、俺じゃないんだろうな……。そんな考えが頭をかすめる。それと同時に、俺はいつまで翠の傍にいられるんだろうか? と不安にもなってくるのだ。  翠に恋人ができたら、こんな関係は一瞬で終わりを迎えることだろう。翠はモテるから、いつかきっとその日は訪れる。  そしたら、俺は本当に独りぼっちだ。  そんなことを考えながらアイスを咥えると、急に前髪を搔き上げられる。ヒンヤリと額に冷たい風を感じた俺は、翠のほうを見上げた。翠がまるで向日葵のように笑っていたから、俺の胸はギュッと締め付けられる。 「碧音さん、すごい汗だね」  翠が自分に向かって笑ってくれることは嬉しいけれど、苦しい気持ちになるのも、また事実だ。  残り物の俺たちの心の傷が癒えたら、俺は翠に必要とされなくなってしまうのだろうか……。 「それは嫌だな」  俺はポツリと呟いてから、手の甲で汗を拭った。 ◇◆◇◆  一学期の最終日。体育館に集まって終業式が行われた。体育館の中はまるでサウナのような暑さで、立っているだけで滝のように汗が流れ出る。熱中症で倒れてしまうのではないか、と不安になるくらいだ。  永遠に続くかと思われた校長先生の話もようやく終わりを迎え、息も絶え絶えに教室に辿り着く。そんな俺を待ち構えていたのが通知表だった。 「ヤバイ、受験生でこの成績か……」  翠に意気揚々と勉強を教えてあげる、なんて言ったくせに俺の成績は実に平平凡凡で。頬がピクピクと引き攣ってきてしまう。  成績が悪いというわけではないが、いいというわけでもない。本当に普通。それは俺自身を見ているかのようで笑えてくる。俺は大きく息を吐きながら、通知表をリュックサックにしまったのだった。

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