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夏休みの宿題⑤
『ヤバイ! 夏休み終わっちゃう! 宿題全然やってないよー!』
突然送られてきた翠からのメールに、俺は目を見開く。思わず寝転がっていたベッドから飛び起きた。
「え? もうすぐ夏休み終わるじゃん?」
俺の全身から血の気が引いていく。カレンダーを確認すると、今日は八月の二十日。始業式は九月一日だ。いくら夏休みに大会があったとは言え、宿題に手を付けていないなんて……。翠らしいと言えば翠らしい。
俺が喉の奥でククッと笑ったとき、スマホが着信を知らせる。電話の主は翠だ。俺の心臓がどんどん高鳴る。会いたくて仕方がなかった翠からの電話に、俺の胸が躍った。
深呼吸をしてスマホの通話ボタンを押す。緊張しているとか、翠からの電話をずっと待っていたなんて悟られたくない俺は、平然を装った。本当は、嬉しくて仕方がないのに――。
「もしもし?」
『あ、碧音さん? 俺、宿題が終わらないよぉ!』
「え? ちょっと、翠。落ち着いて!」
まるで駄々っ子のような声がスマホ越しに聞こえてきた。それが可笑しくて、俺は必死に笑うのを堪える。
「翠、本当に宿題を全然やってないの?」
『全然やってません! 気がついたら今日でした』
「はぁ? 今まで何してたんだよ?」
『部活とゲーム……』
「駄目じゃん……」
『ごめんなさい』
急にトーンダウンしてしまった翠が可哀そうになってしまい、怒ってしまったことを反省する。ゲームはともかく、翠はバスケ部の部長として部活を頑張っていたのだ。本来なら褒めてあげるべきなのかもしれない。
「わかった。一緒に宿題やってあげる。翠、今から学校の図書室に来られる?」
『え? 本当ですか? 俺すぐに行きます!』
「わかった。じゃあ図書室で待ち合わせね」
『はい!』
翠の嬉しそうな声が鼓膜に響いて、俺まで嬉しくなってしまう。顔がにやけてしまいそうになるのを必死に耐えた。
翠に会えるんだ……!
俺は鼻歌を口ずさみながら、久しぶりに制服のワイシャツに腕を通したのだった。
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