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夏休みの宿題⑥
夏休みでも学校の図書室は開放されていて、ちらほら生徒が勉強をしている。もしかしたら、翠と同じように宿題が終わらなくて図書室 で勉強しているのかもしれない。もしくは受験勉強か……。
夏休みと言っても、図書室を利用する生徒は俺の想像以上に多いようだ。
「翠、まだ来てないのか……」
緊張したまま図書室に辿り着いた俺は、全身の力が抜けていくのを感じた。今年も猛暑で外は焦げてしまいそうなほど日差しが強い。蝉がやかましいくらい鳴いているものだから、更に暑さを感じさせた。
翠が来た時に俺を見つけやすいように、俺は入り口から見えるテーブルの椅子に腰を下ろす。ここは冷房の風もよくあたるし、俺のお気に入りの席でもあった。
翠と勉強だなんて、なんだか緊張してしまう。俺は緊張をほぐすために、ワークを開いて勉強を始めた。全然集中なんてできないけれど、何もしていないよりマシだ。
「碧音さん。お久しぶりです」
「え?」
何問か問題を解き終わったとき頭の上で声がした。俺がハッと見上げると、息を切らした翠が立っていた。
あ、翠だ……。
その顔を見た瞬間、心臓がトクンと跳ねた。
その直後、会いたかったという思いが込み上げてきてしまう。会いたい思いを我慢していた分、翠に会えたときの感動は想像以上のものだった。
「碧音さん、お待たせしてすみません」
「ううん、大丈……夫……」
「走ってきたら暑いー! 図書室って超涼しいんですね」
ワイシャツをパタパタと揺らして風を送る姿が妙に艶めかしくて、俺はドキドキしてしまった。
きっと翠は走ってここまで来てくれたのだろう。俺に会いたかった、からかな……? そんなことを考えると、顔に熱が籠っていった。
そんな俺など関係なしに、翠は俺の隣に腰を下ろす。
「は? なんで?」
俺は思わず目を見開いた。こういう場合、向かい合わせで座るのが普通なのではないだろうか? 近すぎる翠との距離に、心臓がうるさいくらいに鳴り響いた。
「じゃあ、お願いします。碧音先輩」
「あ、うん」
ニッコリ微笑む翠の笑顔が眩しくて、小声で呟いてから俯いたのだった。
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