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ファーストキス⑦

「ん、んん……ッ」  うっすらと目を開くと強い痛みを感じて、俺はもう一度目を閉じた。でも、右目が見えにくい。  右の頬がズキズキと痛くて熱をもっているのがわかる。少し口を動かすだけで、痛みが走った。 「じゃあ先生は最上君のお家に電話してくるから、少しだけ付き添っていてもらえるかな?」 「はい、わかりました」 「頭を打っているかもしれないから、病院に行った方がいいと思うんだけど……。大丈夫だよ、小野寺君。そんなに心配しないで。念の為、だからね」 「でも……」 「大丈夫大丈夫。じゃあ、少しの間だけ最上君をお願いね」 「はい」  養護教諭の声と翠の話し声が聞こえてくる。今俺はベッドに寝かされていて、辺りからは消毒薬の匂いがした。きっとここは保健室だろう。顔を覆うように冷たいタオルが載せられていた。  俺は顔面にボールを食らった後、気を失って保健室まで運ばれてきたのだろうか。だとしたら、本当に格好が悪い。  しかも、一体どうやって保健室まで運ばれてきたんだ……。深く考えると自己嫌悪の波に呑み込まれそうになったから、俺は強制的に思考回路を停止した。  まだ頭の中はボーっとしているし、体も鉛のように重たい。体に力を入れても指先が少し動くくらいだった。  本当に情けない。俺は大きく息を吐く。再び襲ってきた睡魔に身を委ねれば、意識が遠退いていった。凄く眠い……。 「碧音さん、大丈夫ですか?」  翠の声がすぐ傍で聞こえてきたと思ったら、ベッドが何かの重みで軋んだ。恐らく、俺の寝ているベッドに翠が腰を下ろしたのだろう。俺の腕を優しく擦ってくれる感覚に、俺はもう一度現実に引き戻された。 「碧音さん」  翠の気配が少しずつ近付いてくるのを感じる。労わるような手つきでタオルの上から頬を撫でてくれた。 「碧音さん、お願い。俺を避けないで」  なんだ? と思う間もなく、俺の唇に柔らかなものが触れる。唇に触れたものはすぐに離れていってしまったけれど、温かな感触に俺は思わず肩を上げた。 「寂しい。お願いだから、避けないでよ」  そう言葉を紡ぐ翠の声は震えていて、俺の胸が切なく締め付けられた。  そして、もう一度唇に温かなものが触れる。  それが翠からキスをされたんだって気が付くまでに、俺は時間がかかってしまった。  だって、これが俺のファーストキスだったのだから。  ――翠……ごめんね……。  俺は虚ろな視線を彷徨わせながら、翠の手をそっと握ったのだった。  

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