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残り物の僕たちは④

 そっと後ずさろうとしたものの、もう立っていることさえやっとだった俺は、足がもつれてその場に尻もちをついてしまった。転んだ瞬間、鈍い痛みに襲われた俺は顔を顰める。  俺が倒れた音に、翠と千颯が二人してこちらを向いた。 「情けない……」  最後の最後まで本当に情けなかった俺。こんな風に無様に尻もちをついたところなんて、見られたくなかった。 「碧音、大丈夫⁉」  翠が俺に慌てて駆け寄って来ようとしたから、俺は思わず全身に力を籠める。  俺に触らないで、千颯の頭を撫でていたその手で……。 「翠の嘘つき……」 「え?」 「お嫁さんにしてくれるって言ったじゃん? 俺のことを守ってくれるって……。あれは嘘だったのかよ?」 「え? あ、これは違う! 違うんだ、碧音!」  翠が真っ青な顔をしながら俺に近付いてこようとしたから、「来るな!」と声を振り絞る。そんな俺の大声に翠がビクッと跳ね上がった。  俺の目からは涙が溢れ出す。翠と仲良くなってから、本当に俺は泣いてばかりだ。泣いたり笑ったり……。でも幸せで。めまぐるしく変わる感情に、俺は振り回されっぱなしだった。 「もういい。結局翠は、千颯が好きだったんだろう? 俺は最後まで千颯の代わりだった。それなのに、俺ばかり浮かれていて……本当に馬鹿みたいじゃん」 「違う、そうじゃないよ。お願い、碧音。俺の話を聞いて?」 「嫌だ。言い訳なんか聞きたくない」 「碧音……」  俺は溢れ出た涙を制服の袖で拭いながら、必死に立ち上がる。足が震えて力が入らないけど、翠と千颯が一緒にいるところなんて見たくない。  翠の後ろには、千颯が心配そうな顔で俺のことを見つめている。千颯はいいな……誰からも大切にされて。そんな千颯を見て思う。  所詮、俺は残り物だ。 「バイバイ、翠」  俺はこれ以上泣くのを必死に堪えながら翠を見上げる。目の前の翠が涙で滲んで見えた。  俺は逃げるように走り出す。溢れ出す涙は止まってなどくれなかった。  これで終わったんだ。俺の恋も、高校生活も。そして、青春も……。  まるで長い夢を見ているようだった。そんな夢もこれで終わり。俺はたった今、夢から覚めてしまったのだから。  翠に裏切られたことが辛くて、俺は無我夢中で走り続けたのだった。

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