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第1話
小学生の頃だ。サギ、ってあだ名の奴がいた。本名は佐々木 栄駿 って言うけど、自己紹介の時に「ぼくのなまえは、さぎっ、ささき、ひでとしです!」ってものの見事に噛んだからみんなにサギって呼ばれてた。
そいつからハガキが来た。同窓会の幹事になったらしい。
こんな調子で気弱なやつだったし、すぐに転校していったから正直あんま覚えてない。よく幹事になれたな。コネでも使ったんだろうか。今社長だっていうし。
小学校にはあまりいい思い出がない。だけど行くのを決めたのは、単にハガキに印刷されてたサギの顔が好みだったからだ。どうせ暇だし。
あの日、オーダー・ロール性の検査結果が配られた日。
検査結果は個別に配られるっていうのに、普通に紙を見せ合ってる同級生をガキだな、と冷めた目で見ながら、俺は周りの奴らが覗き込んでくる前に結果の紙を机にしまった。
「渡辺〜、お前何だった?」
「ん?βNormalだった」
「そっかー、俺も。つまんねーよな、αとかDomとかなってみたかったよな!」
「そうだな」
前の席の奴とそんな会話をしてたら、サギの席の辺りで歓声が上がった。
「わぁ、サギαDomだったって!」
「マジで?グレア出してみてよ!」
「やめなさい、佐々木君がDomだとしてもまだグレアは出ないわよ」
囃したてる奴らの声が耳障りで、それをなだめようとする教師の声も癇に障って、何か言おうとした瞬間、困ったように辺りを見回すサギとなぜか眼があった。
サギの目と俺の目の間に見えない弦が張られた気がした。それがびん、って震えて、
あっ、馬鹿だこいつ
がたがたっと音がして、気がついたら俺は床に座っていた。そんなことしたのは俺だけだった。
みんなの視線がサギから俺に移って、一瞬遅れてサギの目が見開いて、見る間に潤んで、「ごめんなさい」って呟いて、「ごめんなさい、ごめんなさい」って声が大きくなって、突然爆発したように泣きながらサギが教室を出ていって。
俺は無数の視線が突き刺さる中に取り残された。それからすぐにサギは転校した。
ロール性が発現するのは普通は思春期の後、高校生になってからだ。だから俺の小さな嘘は小学校を出るまでは隠し通されるはずだったし、それで問題も起きないはずだった。それが異様に早熟だったサギのせいで、俺はそれをバラされただけではなく、小学生という残酷なまでに早い時期からそれに付き合う羽目になった。
別にいじめられたとかそういうわけじゃない。むしろ一瞬にして未知の生命体と化した俺を連中はどうしたらいいかわからなくて、遠巻きに見てるだけだった。でも本質はそこじゃない。問題だったのは俺がその瞬間から、プレイをしないと死ぬ体になったってことだ。Subになるってそういうことだ。
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