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第4話 兄の訃報

 嘆きの森での救援活動が無事に終了し、上司への報告を済ませたサイラスは、家路についていた。  サイラスの自宅である石壁の建物は一階が雑貨店になっていて、その店主が大家を務めている。  サイラスは調合したオメガの抑制剤の他に、傷薬や毒消しなども作っていて、店主に頼んで店に置いてもらっていた。  店主からオメガの発情抑制剤の在庫が残り僅かだと聞いていたので、なるべく早く作りたい。  魔物討伐で体は疲れているが…………サイラスはオメガに生まれた者にとって発情抑制剤がどれだけ大事な物か知っているので、今夜中にある程度の量を作るつもりでいた。  いつものように二階へと続く階段を登り始めたが、妙に足が重く感じられて、自宅のドアを開けた所で床にへたり込んでしまった。  (魔力切れの反動か?)  ほんの少しだが、息が上がっている気がする。  熱いわけでもないのに体が火照っているような感覚に、サイラスは嫌な予感がした。  (何故だか最近周期が早まっている気がする。魔力切れとも関係があるのか?)  念の為サイラスは自分で調合した薬を飲む。  軽い食事を取り、ほっとしたところで、発情抑制剤の調合を始めた。  作業を開始して、どれくらいの時間が経ったのだろうか。  窓から差し込む月明りに照らされて、一匹の鳩が窓辺に姿を現した。  コンコンとガラスをつつく音に気付いて、サイラスは作業を止めた。  こんな夜更けに飛んで来る鳩は、普通の鳩ではない。 「伝書鳩か」  伝書鳩はその名のとおり、手紙を運んで来る鳩だ。  胸に魔石が嵌められていて、魔法によって身体能力が強化されている。昼夜問わず飛ぶ事が出来るのも、そのためだ。  鳩を襲う外敵から身を守る攻撃魔法も仕込まれていて、確実に手紙が相手に届くようになっていた。 「トリスタン兄上からか?」  サイラスは辺境から遠い、ガラハッド王国の王都に住む長兄からの手紙だと思ったのだが。  差出人の名前を見て、サイラスは眉をひそめた。 「アリステア・イーデリック。アリステア兄上か?」  アリステアはサイラスの次兄だった。  サイラスがまだ幼い頃に、イーデリック侯爵の娘と婚約して、アリステアは早くに家を出てしまっていた。  そのためサイラスとは縁が薄い。  そんな次兄がわざわざサイラスに手紙を寄越すなんて、どういった風の吹き回しだろうか。  疑問に思いながらも手紙に目を移したサイラスは、その書かれていた内容に衝撃を受けた。 「まさか…………そんな…………」  そこにはサイラスの敬愛する長兄トリスタンが、事故死したと記されていた。 「トリスタン兄上が…………そんなこと、信じられない…………」  息の根が止まってしまったかと思うような衝撃に、サイラスの視界が暗転する。  かろうじて作業机に掴まり倒れ込みはしなかったが、サイラスはしばらくうずくまったまま、動けなかった。  悲しみで涙が出ると思ったのに、どうしても信じられなくて涙もでなかった。  アリステアの手紙には、実家に戻るよう記されていた。  (家に戻るなんて…………)  この辺境の地で、騎士になるため家を出てから十七年。  サイラスは一度も実家には戻っていなかった。  戻るつもりもなかった実家に、こんな形で呼び戻されるとは。  (トリスタン兄上が死んだなんて…………この目で確かめないと、信じることは出来ない)  月明りが雲に隠され、部屋が薄暗くなる。  サイラスは沈痛な面持ちで覚悟を決めた。

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