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第16話 後で怒られますから*

 宿場町の飲食店から宿へと戻った頃には、周囲は完全に夜の闇に包まれていた。 「師匠、着きましたよ」  サイラスを抱えたまま、ヴァルトは器用に宿泊している部屋のドアを開けた。 「師匠?」  緊張しているせいか、珍しことに大人しくヴァルトに捕まっていると思っていたサイラスだったが、どうやら疲労感がピークに到達していたらしい。  怪訝に思いヴァルトが顔を覗き込むと、サイラスはヴァルトの胸に身体を預けたまま寝息を立てていた。 「師匠……」  ヴァルトはサイラスを備え付けのベッドに横たえると、額に手を当てた。 「やっぱり……熱が上がってる」  朝に比べてだいぶ下がったと思ったから、ヴァルトはサイラスを夜の町に連れ出したのだが、判断が甘かったようだ。  サイラスから香るオメガ特有の甘い匂いも、ヴァルトは過信していた。  (師匠の精霊魔法は、いつだって完璧だったから。まさか人間のアルファに見破られるなんて、想像していなかったんだ…………)  ヴァルトは獣人の中でも特に嗅覚の鋭い狼の獣人だ。  精霊魔法による匂いの封鎖よりも、ヴァルトの嗅覚の方が上回っている。  だから常日頃サイラスの匂いは嗅ぎ慣れていて、人間にまで漏れているとは、気づかなかったのだ。  (発情抑制剤を飲みすぎたのかも)  ヴァルトはポケットの中から、小さな錠剤を取り出す。  それはアルファ用の発情抑制剤だった。  発情期のサイラスの側にいる以上、絶対に服用しなければならない薬だ。  ヴァルトは錠剤をポケットに仕舞うと、サイラスの為に解熱剤と水の準備を始めた。 「師匠、起きてください。薬は飲めますか?」  眠るサイラスに声をかけたが、返事はない。 「すみません、師匠。後で怒られますから」  ヴァルトは解熱剤と水を口に含むと、サイラスの乾いた唇に口づけた。  舌を使って熱い口内に解熱剤と水を流し込む。  サイラスの喉がコクリと動き、解熱剤を飲み込んだのを確認すると、ヴァルトは再び水を口に含み、口づける。  何度も口づけを繰り返し、用意した水を全て飲ませても、ヴァルトは口づけを止められなかった。  サイラスの温もりから離れ難くて、ヴァルトはサイラスに覆い被さったまま、唇から頬、額へと口づける。  首元のボタンを外し、衣服を緩め、首元へと触れようとした時、そこに巻かれた包帯に気づき、ヴァルトは「はっ」と我に返った。  サイラスが負った傷口を思い出し、冷水を浴びせられた気がしたのだ。 「俺は……何をっ」  慌ててヴァルトは身を起こすと、ポケットの中に手を突っ込む。  アルファ用の発情抑制剤を口の中に放り込むと、噛み砕いた。  途端に広がる苦い味に、ようやくヴァルトは落ち着きを取り戻す。  ヨロヨロと立ち上がると、サイラスから離れ椅子に腰を下ろした。  眠るサイラスは、ヴァルトが触れた事にも気付かない。 「師匠……」  ヴァルトは自身の下肢の間で高まった熱に、唇を噛みしめる。 「すみません、師匠。俺はっ」  ヴァルトはカチリとベルトを緩めると、ズボンを引き下げる。  勢いよく飛び出してきた雄の象徴を見て、苦しげな呻き声を漏らした。  手近にあった布を掴むと雄に押し当てて、ヴァルトは布越しに雄を掴む。 「師匠……好き、好きなんです。愛しています」  ヴァルトは苦しげに顔を歪めたまま、サイラスを見つめる。  高ぶる熱を持て余しそうになりながら、必死に上下に指を動かす。  一度刺激を与えてしまえば、肉欲は留まるところを知らない。 「……あぁ……師匠。愛しています……俺を、受け入れて……」  ヴァルトは絞り出すように、眠るサイラスに愛を囁く。 「師匠っ……」  ドクンッとヴァルトの雄が跳ね、押さえた布越しに熱い飛沫が弾けた。  止まらない射精にヴァルトは呻く。  全て吐き出すまで、じっとサイラスを見つめたまま、ヴァルトは動けなかった。  

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