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第32話 そ……そんな直球で言わなくても……*

 王都を離れ元来た道を戻りながら、辺境の地へと向かう。  王都を目指していた時は、まだ年の離れた弟のようだと思っていたのに。  今のヴァルトはサイラスにとって、人生を共に歩むと誓った番になってしまった。  オメガ性を呪いのような物だと思っていたサイラスは、一生涯番を得る事はないと思っていたのだ。  だから、知らなかった。  伴侶である番を持つことが、どれだけ心と体を安定させるのか。  もう発情を隠すことも、性欲に塗れたアルファに怯える必要もない。  生きる宝石と呼ばれ、売り買いされる事もないのだ。  ヴァルトと番になった事で、サイラスは命を救われ、ようやく人間らしい生き方を選べる自由を得た気がする。  思えばサイラスの母のマイロも、父のラグナと番になった事で、穏やかな生活を手に入れたのかもしれない。  どんなに過酷な時代を過ごしていても、マイロはラグナと番になった事だけは、後悔していなかったと思う。 「ありがとう、ヴァルト。俺を……番に選んでくれて」  思わず口からこぼれ落ちたサイラスの言葉を聞いて、ヴァルトが狼の耳をピンと立ち上げて、目を丸くしている。  しばらく馬に乗りながら固まっていたヴァルトだが、ようやく理解出来たのか、大きな耳をへにょりと倒し、フサフサの尻尾をブンブン振り回した。  日が暮れる前に辿り着いた田舎町で、サイラスは今夜の宿を取った。  小さな宿屋は部屋数が少なく、空いているのは一人部屋しかないと言われたのだ。  それでも構わないと宿屋の店主に告げ、サイラスはヴァルトと小さな部屋に落ち着いた。  簡素な部屋にはベッドが一つしかない。 「俺は椅子で寝ますから、ベッドは師匠が使って下さい」 「何言ってるんだ? 横にならなければ、疲れが取れないだろう?」  (番にまでなって、今さら共寝を遠慮するのか?) 「ほら、ちょっと狭いけど一緒に寝るぞ」  サイラスがベッドの上で手招くと、ヴァルトは困ったようにへにょりと耳を倒して、遠慮気味にサイラスの横に潜り込む。  何故か落ち着かない様子のヴァルトに、サイラスは首を傾げていたけれど、背中越しに伝わってくるヴァルトの心臓の音と、硬く熱を持った下腹部を感じて、ようやく理解した。 「セオドアが居たから、ずっと我慢してたんですけど……」  恥ずかしそうな声音で囁かれて、サイラスの心温も上がった気がした。 「……師匠の次の発情期が来るまで、手を出しませんから。やっぱり俺は椅子で寝ます」  ベッドから出て行こうとするヴァルトの手を、サイラスは咄嗟に掴んだ。 「……発情期じゃないと……駄目なのか?」 「え?」 「その……俺は……お前がしたいなら……」  最後の方は恥ずかしさのあまり、小声になってしまう。 「抱いても良いんですか?」  ヴァルトはひどく真面目な顔で食いついてきた。 「そ……そんな直球で言わなくても……」  今さらオロオロし始めたサイラスの上に、ヴァルトが覆い被さってくる。 「ちゃんと最後まで、したいです。抱かせて下さい」  サイラスは思わず「うっ」と口ごもる。  緊張で尖った狼の耳と、凪いだ動きを見せる尻尾を見てしまったら、引くに引けなくなってしまった。 「……うん……お手柔らかに頼む……」  オイルランプの明かりが仄かに灯る部屋の中で、素肌を全て晒すのは恥ずかしくて、サイラスはヴァルトに明かりを消すように頼んだ。  夜目の効くヴァルトにとっては、気にならないのかもしれない。  だが羞恥心が強いサイラスにとっては、気になるのだ。  発情に流された時は、部屋の明るさなんて気にならなかったけれど。  欲情したヴァルトが衣服を全て脱ぎ捨て、組み敷いてくる姿も心臓に悪い。 「……緊張して、どうにかなりそうだ」  思わず弱音を吐いたサイラスの頬を、ヴァルトが撫でる。 「大丈夫ですよ。すぐに気持ち良くなりますから。俺、ちゃんと勉強してるんで」  妙に自信満々に宣言されて、サイラスは逆に力が抜けた。 「……どういう勉強だよ……」 「性感帯の場所とか?」  しれっと答えたヴァルトを見て、サイラスは唖然として、ますますガックリ脱力した。 「誰だよ~、お前にそんな事教えた奴は……」 「もう黙って下さい」  ヴァルトのキスで唇を塞がれ、サイラスは何も言えなくなる。  差し込まれた舌で、やんわり口腔内を撫でられると、酸欠になってしまったように、サイラスの頭はぼんやりと霞んでくる。  クッタリと完全に緊張感が抜け、キスに夢中になっている間に、サイラスの衣服はヴァルトに脱がされていく。  キスだけで溶けてしまう体は、発情期でもないのに、下腹部を愛液で濡らし始めていた。  ひんやりとした空気に全身を晒され、サイラスの肌が粟立つ。 「寒いですか?」  問いながらも、サイラスの体を愛撫するヴァルトの手は止まらない。  胸の尖りを食まれ、仰け反った拍子に晒した喉元を甘噛みされ、サイラスの体はヴァルトの付けたキスマークだらけになった。  ヴァルトに両足を開かれ、驚く間もなく濡れた窄まりに指を差し込まれる。  指で腹の中を掻き回される度、濡れた音が響いて、たまらずサイラスはヴァルトにしがみついた。 「ヴァルト、もう……良いからっ」 「でも……もう少し慣らさないと」  中途半端に焦らされているようで辛いのだと、サイラスはどうしても口にする事が出来ない。  気づいて欲しくて必死に縋りつき、身を震わせているサイラスの姿を見て、ようやくヴァルトは全ての指を引き抜いた。  ほっと安堵したのも束の間、濡れた窄まりに指とは比べられない程の熱が押し当てられる。 「っ!」  言葉にならない声を漏らして、サイラスはベッドをずり上がる。 「逃げちゃ……駄目です」  ヴァルトに腰を掴まれ、引き戻されて、サイラスは生理的な涙を零した。 「痛いですか⁉」  サイラスの涙に気づいたヴァルトが、慌てた声をあげた。 「だ……大丈夫……も……全部……入れて」  ジワジワと熱の塊に、入り口を押し広げられているだけでは、サイラスは辛いのだ。  腹の奥深くまで穿いて、いっその事何も考えられなくして欲しい。  額に汗を滲ませ、耐えるサイラスの気持ちが伝わったのか、ヴァルトはサイラスの腰を引き寄せ、一気に穿いた。 「ひっ!」  抑えきれなかった悲鳴が漏れ、サイラスは必死に自分の腕を噛んだ。 「師匠っ!」  ヴァルトはサイラスの望む通り、何度も腰を打ち付け、腹の中を蹂躙していく。  腹を押し広げられた圧迫感と、焼けるような異物感に、必死に耐えていたサイラスだったが、体の奥深く子宮口を刺激された途端、ビクリと体が震えた。 「師匠のここ、気持ち良いんですね?」  耳元でヴァルトに囁かれて、サイラスは必死に頭を左右に振った。 「違っ」  言葉とは裏腹に、そこを刺激されるだけで、サイラスは甘い痺れを感じてしまう。 「ヴァルト、やだ、もっ」  これ以上そこを攻めるのは止めてほしいと訴えても、ヴァルトは許してはくれなかった。  散々弱い所を突き荒らされて、我慢できずに溶け切った声が漏れてしまう。 「あっ……んっヴァルト、良い……きもち……い」 「師匠っ、俺もっ」  サイラスの感じ入った声を聞いたヴァルトは、遠慮がなくなったのか、ガツガツと貪るようにサイラスを攻め立てた。  何度も何度も体を穿かれ、限界を迎えた時。  ヴァルトが苦しそうに顔を歪ませながら、サイラスの体の中から出て行こうとした。 「師匠、締めないで。中で出ちゃうからっ」 「出して良いっ」  サイラスが、まさかそんな事を言うとは、ヴァルトは思わなかったのだろう。  小さなうめき声をあげると、弛緩しサイラスの中で果ててしまった。    へにょりと大きな狼の耳を倒して、毛布を被ったサイラスの背にヴァルトが張り付いていた。  フサフサの尻尾も元気がなく、ブラリと垂れ下がっている。  初めて繋がった夜なのに、いきなりサイラスの体の中で果ててしまった事を、ヴァルトは失敗したと思っているのだ。 「……俺が子作りの道具にされたくないって言ってたから……気にしてるのか?」 「いや……それだけじゃなくて……すみません。俺……本当に……我慢できなくて。いろいろ……かっこ悪いです……」  ペタリと、ますます力なく狼の耳が倒れている。  サイラスは寝返りを打つと、ヴァルトの耳を撫でてやった。 「セオドアを……もし、俺の両親が受け入れなかったら、引き取るつもりだったんだ」  思いがけない事を聞いたと、ヴァルトの耳がピンと立ち上がる。 「子供が……いるのも悪くないなって、セオドアを見てたら思ってしまって。……寂しくなったのもあるけど……」  フサフサの狼の耳を撫でながら、サイラスは呟く。 「お前の子供だったら、きっと可愛いだろうなって………」  頬を染めて俯いてしまったサイラスを、ヴァルトがお月様のようにまん丸な目をして見つめている。 「だから……欲しくなってしまって……つい、あんなことを……」 恥ずかしそうに目を逸らしたサイラスに、ヴァルトがギュッと抱きついてきた。 「師匠! 子供欲しいんですか⁉」 「……う……まぁ……できたらの話だけど……」 「俺、頑張ります! 毎日励みますね‼」 「えっ……いや……毎日はさすがに……週七とか……あんな激しい運動……体がもたない……」  落ち込んでいたはずが、急に元気になってしまったヴァルトを前にして、サイラスはオロオロと焦りだす。 「大丈夫ですよ。慣れですから」 「慣れない! 絶対慣れないから! あと、毎日なんて無理! もうすぐ三十路のおっさんなんだぞ。労ってくれ!」

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