32 / 34
第32話 そ……そんな直球で言わなくても……*
王都を離れ元来た道を戻りながら、辺境の地へと向かう。
王都を目指していた時は、まだ年の離れた弟のようだと思っていたのに。
今のヴァルトはサイラスにとって、人生を共に歩むと誓った番になってしまった。
オメガ性を呪いのような物だと思っていたサイラスは、一生涯番を得る事はないと思っていたのだ。
だから、知らなかった。
伴侶である番を持つことが、どれだけ心と体を安定させるのか。
もう発情を隠すことも、性欲に塗れたアルファに怯える必要もない。
生きる宝石と呼ばれ、売り買いされる事もないのだ。
ヴァルトと番になった事で、サイラスは命を救われ、ようやく人間らしい生き方を選べる自由を得た気がする。
思えばサイラスの母のマイロも、父のラグナと番になった事で、穏やかな生活を手に入れたのかもしれない。
どんなに過酷な時代を過ごしていても、マイロはラグナと番になった事だけは、後悔していなかったと思う。
「ありがとう、ヴァルト。俺を……番に選んでくれて」
思わず口からこぼれ落ちたサイラスの言葉を聞いて、ヴァルトが狼の耳をピンと立ち上げて、目を丸くしている。
しばらく馬に乗りながら固まっていたヴァルトだが、ようやく理解出来たのか、大きな耳をへにょりと倒し、フサフサの尻尾をブンブン振り回した。
日が暮れる前に辿り着いた田舎町で、サイラスは今夜の宿を取った。
小さな宿屋は部屋数が少なく、空いているのは一人部屋しかないと言われたのだ。
それでも構わないと宿屋の店主に告げ、サイラスはヴァルトと小さな部屋に落ち着いた。
簡素な部屋にはベッドが一つしかない。
「俺は椅子で寝ますから、ベッドは師匠が使って下さい」
「何言ってるんだ? 横にならなければ、疲れが取れないだろう?」
(番にまでなって、今さら共寝を遠慮するのか?)
「ほら、ちょっと狭いけど一緒に寝るぞ」
サイラスがベッドの上で手招くと、ヴァルトは困ったようにへにょりと耳を倒して、遠慮気味にサイラスの横に潜り込む。
何故か落ち着かない様子のヴァルトに、サイラスは首を傾げていたけれど、背中越しに伝わってくるヴァルトの心臓の音と、硬く熱を持った下腹部を感じて、ようやく理解した。
「セオドアが居たから、ずっと我慢してたんですけど……」
恥ずかしそうな声音で囁かれて、サイラスの心温も上がった気がした。
「……師匠の次の発情期が来るまで、手を出しませんから。やっぱり俺は椅子で寝ます」
ベッドから出て行こうとするヴァルトの手を、サイラスは咄嗟に掴んだ。
「……発情期じゃないと……駄目なのか?」
「え?」
「その……俺は……お前がしたいなら……」
最後の方は恥ずかしさのあまり、小声になってしまう。
「抱いても良いんですか?」
ヴァルトはひどく真面目な顔で食いついてきた。
「そ……そんな直球で言わなくても……」
今さらオロオロし始めたサイラスの上に、ヴァルトが覆い被さってくる。
「ちゃんと最後まで、したいです。抱かせて下さい」
サイラスは思わず「うっ」と口ごもる。
緊張で尖った狼の耳と、凪いだ動きを見せる尻尾を見てしまったら、引くに引けなくなってしまった。
「……うん……お手柔らかに頼む……」
オイルランプの明かりが仄かに灯る部屋の中で、素肌を全て晒すのは恥ずかしくて、サイラスはヴァルトに明かりを消すように頼んだ。
夜目の効くヴァルトにとっては、気にならないのかもしれない。
だが羞恥心が強いサイラスにとっては、気になるのだ。
発情に流された時は、部屋の明るさなんて気にならなかったけれど。
欲情したヴァルトが衣服を全て脱ぎ捨て、組み敷いてくる姿も心臓に悪い。
「……緊張して、どうにかなりそうだ」
思わず弱音を吐いたサイラスの頬を、ヴァルトが撫でる。
「大丈夫ですよ。すぐに気持ち良くなりますから。俺、ちゃんと勉強してるんで」
妙に自信満々に宣言されて、サイラスは逆に力が抜けた。
「……どういう勉強だよ……」
「性感帯の場所とか?」
しれっと答えたヴァルトを見て、サイラスは唖然として、ますますガックリ脱力した。
「誰だよ~、お前にそんな事教えた奴は……」
「もう黙って下さい」
ヴァルトのキスで唇を塞がれ、サイラスは何も言えなくなる。
差し込まれた舌で、やんわり口腔内を撫でられると、酸欠になってしまったように、サイラスの頭はぼんやりと霞んでくる。
クッタリと完全に緊張感が抜け、キスに夢中になっている間に、サイラスの衣服はヴァルトに脱がされていく。
キスだけで溶けてしまう体は、発情期でもないのに、下腹部を愛液で濡らし始めていた。
ひんやりとした空気に全身を晒され、サイラスの肌が粟立つ。
「寒いですか?」
問いながらも、サイラスの体を愛撫するヴァルトの手は止まらない。
胸の尖りを食まれ、仰け反った拍子に晒した喉元を甘噛みされ、サイラスの体はヴァルトの付けたキスマークだらけになった。
ヴァルトに両足を開かれ、驚く間もなく濡れた窄まりに指を差し込まれる。
指で腹の中を掻き回される度、濡れた音が響いて、たまらずサイラスはヴァルトにしがみついた。
「ヴァルト、もう……良いからっ」
「でも……もう少し慣らさないと」
中途半端に焦らされているようで辛いのだと、サイラスはどうしても口にする事が出来ない。
気づいて欲しくて必死に縋りつき、身を震わせているサイラスの姿を見て、ようやくヴァルトは全ての指を引き抜いた。
ほっと安堵したのも束の間、濡れた窄まりに指とは比べられない程の熱が押し当てられる。
「っ!」
言葉にならない声を漏らして、サイラスはベッドをずり上がる。
「逃げちゃ……駄目です」
ヴァルトに腰を掴まれ、引き戻されて、サイラスは生理的な涙を零した。
「痛いですか⁉」
サイラスの涙に気づいたヴァルトが、慌てた声をあげた。
「だ……大丈夫……も……全部……入れて」
ジワジワと熱の塊に、入り口を押し広げられているだけでは、サイラスは辛いのだ。
腹の奥深くまで穿いて、いっその事何も考えられなくして欲しい。
額に汗を滲ませ、耐えるサイラスの気持ちが伝わったのか、ヴァルトはサイラスの腰を引き寄せ、一気に穿いた。
「ひっ!」
抑えきれなかった悲鳴が漏れ、サイラスは必死に自分の腕を噛んだ。
「師匠っ!」
ヴァルトはサイラスの望む通り、何度も腰を打ち付け、腹の中を蹂躙していく。
腹を押し広げられた圧迫感と、焼けるような異物感に、必死に耐えていたサイラスだったが、体の奥深く子宮口を刺激された途端、ビクリと体が震えた。
「師匠のここ、気持ち良いんですね?」
耳元でヴァルトに囁かれて、サイラスは必死に頭を左右に振った。
「違っ」
言葉とは裏腹に、そこを刺激されるだけで、サイラスは甘い痺れを感じてしまう。
「ヴァルト、やだ、もっ」
これ以上そこを攻めるのは止めてほしいと訴えても、ヴァルトは許してはくれなかった。
散々弱い所を突き荒らされて、我慢できずに溶け切った声が漏れてしまう。
「あっ……んっヴァルト、良い……きもち……い」
「師匠っ、俺もっ」
サイラスの感じ入った声を聞いたヴァルトは、遠慮がなくなったのか、ガツガツと貪るようにサイラスを攻め立てた。
何度も何度も体を穿かれ、限界を迎えた時。
ヴァルトが苦しそうに顔を歪ませながら、サイラスの体の中から出て行こうとした。
「師匠、締めないで。中で出ちゃうからっ」
「出して良いっ」
サイラスが、まさかそんな事を言うとは、ヴァルトは思わなかったのだろう。
小さなうめき声をあげると、弛緩しサイラスの中で果ててしまった。
へにょりと大きな狼の耳を倒して、毛布を被ったサイラスの背にヴァルトが張り付いていた。
フサフサの尻尾も元気がなく、ブラリと垂れ下がっている。
初めて繋がった夜なのに、いきなりサイラスの体の中で果ててしまった事を、ヴァルトは失敗したと思っているのだ。
「……俺が子作りの道具にされたくないって言ってたから……気にしてるのか?」
「いや……それだけじゃなくて……すみません。俺……本当に……我慢できなくて。いろいろ……かっこ悪いです……」
ペタリと、ますます力なく狼の耳が倒れている。
サイラスは寝返りを打つと、ヴァルトの耳を撫でてやった。
「セオドアを……もし、俺の両親が受け入れなかったら、引き取るつもりだったんだ」
思いがけない事を聞いたと、ヴァルトの耳がピンと立ち上がる。
「子供が……いるのも悪くないなって、セオドアを見てたら思ってしまって。……寂しくなったのもあるけど……」
フサフサの狼の耳を撫でながら、サイラスは呟く。
「お前の子供だったら、きっと可愛いだろうなって………」
頬を染めて俯いてしまったサイラスを、ヴァルトがお月様のようにまん丸な目をして見つめている。
「だから……欲しくなってしまって……つい、あんなことを……」
恥ずかしそうに目を逸らしたサイラスに、ヴァルトがギュッと抱きついてきた。
「師匠! 子供欲しいんですか⁉」
「……う……まぁ……できたらの話だけど……」
「俺、頑張ります! 毎日励みますね‼」
「えっ……いや……毎日はさすがに……週七とか……あんな激しい運動……体がもたない……」
落ち込んでいたはずが、急に元気になってしまったヴァルトを前にして、サイラスはオロオロと焦りだす。
「大丈夫ですよ。慣れですから」
「慣れない! 絶対慣れないから! あと、毎日なんて無理! もうすぐ三十路のおっさんなんだぞ。労ってくれ!」
ともだちにシェアしよう!

