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“いじめっ子”の友情

「勘違いするなよ? 今のは怜央が口答えした“お仕置き”だ……? でも……俺は生徒を平等に扱うんだ。だから、お前が口答えした“お仕置き”は、怜央にしてやる……?」  そう語る先生の声には、微かな冷笑が含まれている。 「悠馬が俺に口答えした“お仕置き”として、怜央の“ご褒美”は、お預けだ……?」          ♫ ♫ ♫  “ご褒美”というのは、「乳首をくすぐりながらお尻の穴にキス」という“お遊戯”のことだ。  そもそも、怜央先輩は「チ×ポが勃ったら歌を歌え」と先生に言われたけど、オチ×ポが勃っても直ぐには歌を歌わなかった。  ところが、先生が“ご褒美”をちらつかせた途端、歌を歌い始めた。  その現金な行動を咎められた挙げ句、指先でお尻の穴を突かれるという今の“お仕置き”に繋がった訳だけれど、先生は“ご褒美”すらも撤回してしまった。  怜央先輩にしてみれば、“お仕置き”に耐えた甲斐もなかったってことになるから、落ち込んでもおかしくないところだ。  だけど、怜央先輩は意外と落ち着いていた。  落ち込む様子を見せたのは、悠馬先輩のほうだった。          ♫ ♫ ♫ 「怜央、ごめんな……?」     溜息のように掠れた吐息で、悠馬先輩が怜央先輩に謝った。 「俺が口答えしたせいで、“ご褒美”がなくなっちゃって……?」 「俺のほうこそ、ごめん……?」  空かさず、怜央先輩も謝罪の言葉を返した。 「そもそもは、俺が口答えしたから、悠馬が“お仕置き”されることになっちゃったんだよな……?」  そんな遣り取りをする二人を前にして、浅井先生が呟いた。 「友達を庇い合うなんて、美しい友情だな……?」  その声には、微かな含み笑いがあった。  先生が言うところの「美しい友情」を見せた二人を前に、また何か幼稚な好奇心を唆られたようだった。 「よし、“お仕置き”は終わりだ……?」  先生はそう告げると、腰を上げた。  二人は壁から両手を離し、長く突き出していたお尻を戻して、上半身を起こした。  ずらしたビキニパンツはそのままで、先生のほうを向き直った二人に、先生は続けた。 「お前ら、キスをしろ? 今のお前らだったら、キスくらいはできるだろ?」          ♫ ♫ ♫  妙な話ではあるけれど、僕は事の成り行きを見守った。  先生の指図に従って、二人がキスするのかどうか、興味を抱かずにはいられなかった。  その結果が、僕の高校生活の将来を決定するような気すらした。          ♫ ♫ ♫    今になって思い返してみると、最初に先生から「チ×ポを見せろ」と言われて二人が素直に応じたのは、ちょっとした“悪ノリ”だったんだろう。    実のところ、小学生の頃は、お互いのオチ×ポを見せ合って笑い転げるクラスメイトの男子は、珍しくはなかった。  冗談の延長線上にある、ちょっとやんちゃな男の子特有の“悪ノリ”だ。  でも、その後に浅井先生が繰り広げた“お仕置き”という名目の過激な展開は、最早“悪ノリ”の範疇を越えていた。  にもかかわらず、二人は“お仕置き”に魅了され、どんどん夢中になっていった。  もしも、このまま二人が浅井先生の創る雰囲気に呑まれてしまったら、さっきは躊躇した「牛乳浣腸」にも、もう抵抗を感じないだろう。  僕は二人がキスを断ってくれることを願った。  キスなんて、“悪ノリ”でするもんじゃない。  二人に、そろそろ踏み止まってほしかった。  これ以上、この体育倉庫の雰囲気を常軌を逸したものにしてほしくなかった。    だけど、結局のところ、僕の期待は裏切られた。          ♫ ♫ ♫  僕と浅井先生が見守る前で、悠馬先輩と怜央先輩は静かに向き合った。    どちらも一歩歩み寄って、悠馬先輩は怜央先輩の背中に手を、怜央先輩は悠馬先輩の腰に手を回した。  でも、やっぱり多少の気恥ずかしさはあるんだろう。  抱き合ってからも束の間は、悠馬先輩は怜央先輩の顔を間近で眺めながら、その笑顔をかすかに強張らせていた。  誰の目にもきっとそう映るに違いない、分かりやすい“照れ笑い”だった。  一方の怜央先輩の微笑には、余裕が感じられた。 「まさか、怜央とキスする日が来るなんて、夢にも思わなかったな……? でも、俺、キスには自信があるんだ……? 俺のキスの虜になっても知らないからな……?」  照れ隠しをしたいのか、悠馬先輩が冗談めかして言うと、怜央先輩は返した。 「俺だって、悠馬に負けるつもりはないよ……?」    それからもしばらく、二人は笑っていたけど、やがて二人の視線の先が、相手の目から唇へと移った。  同時に、霧が晴れるみたいに二人の顔から笑顔が消えて、お互いの唇を見つめる眼差しが、一気に真剣になった。  どちらからともなく、ゆっくりと唇を近づけてた。  体育倉庫を満たす沈黙の中で、自分の唇の柔らかさを相手の唇に伝えるかのように、二人はそっと重ね合わせた。    いわゆる“バードキス”と呼ばれる、ソフトなキスだ。  しばらくすると、二人はゆっくりと唇を離した。    そこで、悠馬先輩は浅井先生のほうに顔を向けた。  先生の指図に素直に従った自分たちに、何か言葉をかけてほしそうだったけど、空かさず怜央先輩が言った。 「悠馬、よそ見するなよ?」 「え?」  悠馬先輩が怜央先輩のほうに顔を戻した、その瞬間だった。  今度は一方的に怜央先輩が悠馬先輩に顔を近づけて、唇を押し当てた。

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