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恋に落ちた“いじめっ子”①
「んッ!?」
小さな呻き声とともに大きく目を見開いて、悠馬先輩は怜央先輩の唇を受け止めた。
だけど、何か眩しいものを眺めているみたいに、やがてその目が細くなった。
――ヌチュ、ヌチュッ、ヌプチュッ……――
粘着質に塗れた音が体育倉庫に響くようになったのは、同じ頃だった。
――プチュッ、ヌチュッ……――
まるで温かい泥の中で、二匹のナメクジが抱き合っているかのような音だ。
――チュプ、ブチュッ……ヌチュ、ブチュ……――
でも、もちろんこの体育倉庫には、ナメクジなんていない。
悠馬先輩の口の中で、二人の舌が絡み合っている音だ。
これもまた妙な話ではあるけれど、濃密なキスに耽る二人を眺めているうちに、僕はまるでおとぎ話の世界に足を踏み入れたかのような、ロマンティックな気分になった。
ビキニパンツをだらしなくずらして、勃ったオチ×ポを曝け出した“美少年”が、淫靡な音を立てて舌キスに耽る光景は、幻想的ですらあった。
やがて、悠馬先輩から唇を離して、怜央先輩が浅井先生に言った。
「先生、もう少し俺たちに時間をくれませんか? やってみたいことがあるんです……」
「やってみたいことって、何だ?」
興味津々といった感じで浅井先生が訊ねると、怜央先輩は答えた。
「次は……悠馬の尻の穴をくすぐりながら、キスしてみたいんです……」
「ハハハッ……」
浅井先生が楽しそうに笑った。
「いいぞッ!? きっと悠馬も喜ぶだろう……?」
こうして、浅井先生は了承したものの、悠馬先輩は慌てたように口を挟んだ。
「な、何言ってるんだよッ!?」
「尻の穴はお気に召さないかな……?」
怜央先輩は惚けて聞き返した。
「だったら乳首にしようか……?」
「そ、そうじゃなくて……?」
あたふたする悠馬先輩を横目に、怜央先輩は悠馬先輩の腰に回している両手のうち、左手だけをそこから解いた。
上半身を反らして、密着していた二人の胸板の間に隙間を作ると、その左手を悠馬先輩の右胸にのせた。
「ん……んッ、ん……」
悠馬先輩が掠れた鼻息を漏らした。
まるで子供の頭をそうするみたいに、怜央先輩の中指の先が悠馬先輩の乳首を撫でているのが、僕にもはっきりと見えた。
しばらくして、怜央先輩が――悠馬先輩の乳首を、指先で撫でながら――おもむろに謝罪の言葉を口にした。
「悠馬、ごめんな……?」
「何で……謝るんだよ……?」
「悠馬の乳首を感じさせてやれなくて、本当にごめん……」
「え……?」
「全然エッチな声を出さないってことは、感じてないってことだろ……?」
いささか迷った様子を見せた後、悠馬先輩は恥ずかしそうに白状した。
「俺……感じてるよ……? 怜央にくすぐられてる乳首、ズキズキ疼いてる……?」
途端、怜央先輩が、乳首の愛撫を止めて小さく吹き出した。
「フフッ、さっきのは冗談だよ……? 悠馬が感じてるってことは分かってる……?」
「え?」
「だって……悠馬の乳首、ビンビンに勃ってるからな……?」
いっそうあたふたした悠馬先輩が、悲鳴を上げた。
「いやぁぁ、ん……」
紛れもなく、それは“牝 ”の悲鳴だった。
♫ ♫ ♫
さっき、浅井先生に“お仕置き”されている最中に、二人はどちらも牝 になった。
だけど、怜央先輩は「クール・ビューティー」という本来の魅力を取り戻した。
一方の悠馬先輩は、怜央先輩の前でも“牝 ”のままだった。
普段の悠馬先輩の言動は、少なくとも怜央先輩に比べれば荒々しいから、ちょっと意外な気もしたけど、悠馬先輩のやんちゃな部分を、大人びた怜央先輩の抱擁力が受け止めているみたいだった。
もしも、二人がこのまま恋愛関係に発展すれば、きっと悠馬先輩が“ネコ”で、怜央先輩が“タチ”ってことになるんだろう。
♫ ♫ ♫
「……感じてるんだったら、俺にも悠馬の声を聞かせてくれよ……?」
口元に微かな微笑を湛えて、怜央先輩が言った。
「さっき浅井先生にくすぐられてた時は、イヤらしい声を出してただろ?……」
「でも……先生は大人だから平気だったけど……怜央の前だと、やっぱり……恥ずかしくて……」
悠馬先輩は言いにくそうにそう弁解した。
確かに、さっきの悠馬先輩は、固く口を結んでいた。
小さな溜息を挟んで、悠馬先輩は続けた。
「それに……ちょっと悔しかったんだ……?」
「悔しいって、何が?」
またちょっと躊躇った後、悠馬先輩は観念したみたいに告白した。
「……さっきの怜央のキス、めちゃくちゃ上手かった……」
「フフッ、そんなに気に入ってくれたんだ……?」
「ああ、あんなキス、俺には出来ない……」
もう一度、悠馬先輩が溜息をついた。
「だけど……あんな上手なキスする怜央の前で、格好つけても仕方ないよな……?」
自分に言い聞かせるように悠馬先輩が呟いたとき、怜央先輩が乳首の愛撫を再開した。
「んッ……ん、、んッ……」
さっきみたいに、何度か鼻で悶えた後、悠馬先輩の唇が緩んだ。
「あっ……あ、あんっ……あ、あぁっ……」
今までとは打って変わって、悠馬先輩は感じている顔を怜央先輩に見せつけたいかのようだった。
「あぁ、あぁっ……あ、あ、あぁん……」
怜央先輩の目を見つめて、甘ったるい声を怜央先輩の唇に吹きかける。
怜央先輩も、浮かべていた微笑をさらに明るくして、悠馬先輩を見つめ返している。
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